さらに、鉄道職員に対する暴行によりその業務を妨害した場合には、威力業務妨害罪(刑法第234条)として3年以下の懲役または50万円以下の罰金の刑罰も用意されている。
業務妨害に及んだ場合には鉄道営業法第38条による処罰もあるが、これは1年以下の懲役とされており、通常の業務妨害罪よりも軽い処罰となっている。実務上はこの刑罰の差は問題にならないと思われるが、鉄道営業法の規定自体相当に古いものではあるので、少なくとも威力業務妨害罪と同程度の刑に引き上げてもよいようにも思われる。
ところで、同じ鉄道職員に対する暴行でも、これよりも重い3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金で処罰される可能性もある。公務執行妨害罪(刑法第95条)に当たる場合がそれである。
公務執行妨害罪は、「公務員が職務の執行をするに当たり、これに暴行または脅迫を加える行為」を処罰の対象とする。その昔、JRの前身である日本国有鉄道が存在した時には、国鉄職員に対する暴行が公務執行妨害罪で処罰されたこともあった。
一例として、東北本線・小牛田駅(宮城県)で急行列車の乗務を終え終業点呼を受けるためにホームを歩いていた国鉄の運転士に対する暴行が、公務執行妨害罪に当たるとされたケースがある(最高裁昭和54年1月10日決定「小牛田駅事件」)。私鉄の職員に暴行し業務を妨害した場合には業務妨害罪等にとどまるのに、である。しかも、公務執行妨害罪の成立には現実に職務が妨害されることを必要としないが、業務執行妨害罪の成立には業務の妨害があったことまで必要とされ、その差も大きい。
「公務執行妨害」の恐れは今も
1987(昭和62)年4月1日の国鉄分割民営化以降は、その職員は公務執行妨害罪の対象ではなくなった。しかし、いまでも、地方自治体により運営されている鉄道の職員に対し職務中に暴行すれば、業務妨害罪より重い公務執行妨害罪に問われ得る。
もっとも、権力行使的な側面を伴わず民間類似の職務に従事する公務員を公務執行妨害罪の保護対象とするのかどうか、という議論は昔から存在する。民間類似の職務を遂行している公務員への暴行には、公務執行妨害罪ではなく業務妨害罪でもって処罰するべき、という意見もある。
公務の民間委託が進む一方で、鉄道はむしろ経営における上下分離方式の採用や第三セクターによる経営など、公共的性格が濃くなっている面もある。円滑な鉄道業務確保のための刑罰法規について議論が必要かもしれない。
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