鉄道現場での不法行為は、暴力行為のような明白かつ物理的な不法行為だけではない。物理的ではない不法行為もある。たとえば、写真の撮影行為は一つ間違えば不法行為となる可能性もある。
人は「みだりに自分の容貌などを撮影されない」「みだりにそれを公表されない」という人格的利益を有する。いわゆる「肖像権」などと呼ばれるものである。肖像権侵害に関する著名な裁判例もいくつか出されており(最高裁2005(平成17)年11月10日判決など)、写真撮影に対し「肖像権」侵害を理由にした損害賠償請求も認められ得る。
鉄道写真の撮影対象となる鉄道は公共交通機関である。駅には不特定多数の人が集まり、列車内という限定的な空間では不特定多数の人が乗り合わせ、それぞれの目的地に散っていく。鉄道は人がいてこそ成り立つものである。勢い、鉄道の現場で撮影された写真には赤の他人が写りこむことが多くなる。むしろ、何気ない人の動きと鉄道を絡めた写真が好まれるケースすらある。その一方で、写りこむ人全てに撮影許可や公開許可をとることは多くない。
SNS発達で高まる「肖像権」意識
昔はそれでも写りこみについてさほど問題にはならなかった。また、かつては、プロカメラマンの写真でもない限り撮影した鉄道写真が広く公開されることは少なかった。
ところが、最近、フェイスブックやツイッター、インスタグラムのようなSNSの急速な発達により、自分が撮影した写真をインターネット上で公開する人が急増している。これにより、世界中の人に自分が撮った写真を見てもらうことが可能になった。鉄道写真については、これまでのコアな鉄道ファンだけでなく誰でもが普通に撮るようになっている。インターネットを通じて世の中に出回っている鉄道写真の数は天文学的な数に上っているであろう。
一方で、このSNSの発達により、個人の「肖像」に対する権利意識も高まってきた。今日、自分が写った写真が瞬く間に全世界に広がる可能性があり、自分が写った写真がどこに行き、どう使われるか分からないという不安、SNSで写真が拡散したことによるトラブルの噂などを耳にするようになり、多くの人がネットでの情報拡散に対し恐怖感を抱くようになったのであろう。
人の肖像権を保護するためには、肖像の持主がその情報を管理できなければならない。インターネットで拡散されると、もはやその肖像について持主が管理できなくなるということに現代の一番の問題がある。これまでのように何も考えずに鉄道写真を撮影して人を写し込み、SNSなどにアップすることが、これからは肖像権侵害に発展する可能性も否定できなくなってきている。
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