「キャリアアップ信仰」という名の地獄 知らないうちに陥っている?

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そんなこと言われても、いつリストラされるかもしれないし、会社が潰れるかもしれない、老後だってどうなるか分からない。不安の種は尽きませんね。でも、そんな不安は、今に始まったことではありません。人間は、生まれて、老いて、病んで、死ぬ、ただそれだけです。誰一人としてその苦しみから逃れることはできません。

生きながらにして「死んでいる」人々

仏教の言葉に「独生独死独去独来(どくしょう どくし どっこ どくらい)」(大無量寿経)という言葉がありますが、人間は生まれたのが独りなら、死ぬのもまた独り、やって来たのも独りなら、去って行くのもまた独りです。どんなにお金持ちであっても、どんなに健康であっても、どんなに家族に恵まれていても、そんなことは関係ありません。皆、最期はすべてを置いてこの世を去っていかなければなりません。

人間は皆、独生独死独去独来。勝ち組も、負け組もありません。この当たり前の考えに返ってみることも必要ではないでしょうか。

もしあなたが「キャリアアップ信仰」という地獄から抜け出したいのであれば、「生きにくい時代」と嘆く前に考えるべきことが1つあります。それは、自分は本当に生きているんだろうか?ということです。

仏教で描かれる「地獄」の特徴のひとつは、「死ねない」という苦しみ。死のない世界には生もなく、それは途方もない苦しい世界であるということを表しています。

生きにくい時代を何とか上手にサバイブ(=生き抜く)しようと、いたずらにスキルアップに精を出しても、生き抜くどころか今の人生を「生きていない」状態へと落ち込んでしまいます。また、みじめな老後人生にだけはならないようにしっかり準備をしようと、必要以上に貯蓄に執心しても、老後を豊かにするどころか、今現在の生をみじめなものにしてしまうでしょう。

「生きにくい」時代ではなく「生きていない」時代

実は、現代は「生きにくい時代」なのではなくて、多くの人が「生きていない時代」なのです。人は独り、生まれ、老いて、病んで、死ぬという、この途方もない現実を直視せず、自分の手で人生をコントロールできるかのような幻想を社会全体で支え合いながら、昨日と変わらぬ今日、今日と変わらぬ明日がただ続いていくような錯覚を抱いて日々を過ごしています。

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