もっと広がれ!障害者のゴルフライフ ゴルフ場も健常者も学べることばかりだ

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協会では研修会や定例会の形でコンペを始め、使用できるゴルフ場も増えていった。今は年10回程度行っている。仲間も増えてきた。1回に100人弱集まる。「障害者でやっている方は全国で300~500人ぐらいいるのでは」という。仲間の中からプロゴルファーも誕生した。同協会の理事で幼少のころに右手首を切断して義手をしている小山田雅人さんが、2014年に日本プロゴルフ協会のティーチングプロB級の資格を取得している。

ゴルフはどうやってできるようになるのだろう。「結局は工夫なんです。健常者のスイング理論は当てはまらない。でも、止まっているボールをまっすぐ打つという目指すところは健常者と同じ。私の場合、左足は体を支えるだけで右足体重で打ちます。障害によってスイングのポイントは違う」という。角谷さんは年齢もあってレディースティーからプレーすることが多いというが、スコアは90台前半、80台で回ることもある。

障害を負ってもできることに気づくかどうか

内閣府の2015年障害者白書によると、全国の身体障害者は366万3000人。すべての方にゴルフが当てはまるわけではないだろう。先天性、後天性(事故や病気など)でも違う。「要は障害を負ってもゴルフができることに気づくかどうか、なんですね。もっとゴルフをする障害者が増えたらいいと思っています。特に若い人が入ってきてほしい。これは今のゴルフ業界と同じなのでは」と角谷さん。体験からも「周囲に誘ってくれる人がいればやりやすくなる」という。

ゴルフ場の対応はどうなのだろうか。全国で133コースを運営するPGMホールディングスに聞いたところ「障害者受け入れのマニュアルはありません。聴覚障害の方は危険もありますが。問題はプレーの進行だと思います。受け入れはゴルフ場ごとの判断になります」とのこと。

障害者はプレーが遅くなるのだろうか。角谷さんは「一番気にするのが進行です。研修会などでも障害の程度などによって組み合わせを考え、3人で回してもらうとか、迷惑を掛けないようにします」という。健常者でも遅い人はいるし、気にもかけない人がいることを考えれば、視覚障害はサポートが必要なので多少難しい面もあるが、進行第一とする障害者は問題ないだろう。健常者も見習いたい。

障害者の目で見たゴルフ場の課題は、今後のゴルフ業界の課題にも合致している。「カートを使え、できればフェアウエーに乗り入れられることと、高低差が少ないこと」がゴルフ場選びの条件という。これから多くなる高齢者にとっても同じ。「2015年問題(団塊世代の退職)」「2020年問題(団塊世代の高齢化)」など問題を抱えるゴルフ業界。

少しでもつなぎとめておくために、芝や土質、メンバーシップなどの問題もあるが、考えていかなければならないだろう。100万~200万円ぐらいするらしいが、車イスのゴルフカートも海外にはある。障害者に対応できるゴルフ場は、高齢化対策はもちろん、初心者対策にもなる。コースレイアウトは変えようがなくても、できることは見つかるはずだ。

角谷さんは最後にこんなことを話した。「パラリンピックに採用されたらいいのですが。障害者にとって大きな目標があれば、もっと人口は増えると思います。車イスバスケットとか格好いいですもんね」。2020年東京パラリンピックの実施競技は2015年末に決定して、ゴルフは入っていない。せっかく日本で行われる大会。デモンストレーションでもエキシビションでもいいから、何かの形で実施できないものだろうか。

赤坂 厚 スポーツライター

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あかさか あつし / Atsushi Akasaka

1982年日刊スポーツ新聞社に入社し、同年からゴルフを担当。AON全盛期、岡本綾子のアメリカ女子ツアーなどを取材。カルガリー冬季五輪、プロ野球巨人、バルセロナ五輪、大相撲などを担当後、社会部でオウム事件などを取材。文化社会部、スポーツ部、東北支社でデスク、2012年に同新聞社を退社。著書に『ゴルフが消える日 至高のスポーツは「贅沢」「接待」から脱却できるか』(中央公論新社)。

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