次の世代のために”夢”を見せたい 知の「新世代リーダー」 東浩紀 思想家(上)

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――しかし、現実に今の日本は実学優先で、人文・社会科学の領域は軽視されています。

軽視されていますね。みんな、バカにしきっています。けれど、蒸気機関が発明されただけでは、民主主義は実現しませんよ。素朴な技術決定論が支配していますね。 

近代が実現したのは、市民の自由や人権といったさまざまな概念が発明されたからなんです。みな、その前提を知らなさすぎます。

思想は決定的に大事です。原発問題だって、福島第一原発が事故を起こしたからアウトとか、そういう単純な話であってはならない。日本人は、第2次世界大戦で原爆を落とされ、経済成長でしか自分たちのプライドを取り戻せなかった。原発はそのプライド回復の象徴だった。

だから、いま「原発は全部間違いでした」というのは簡単だけど、それは過去の自分を否定しているだけです。思想的に実に浅い。そうではなく、私たちが原発の何に魅せられ、どこでどう間違っていたかを分析し、総括して、そこから新しい国家観を作るといった、人文的な作業が必要とされる。

今の日本は、政治家も学者もそのような作業をしていない。みな金の話しかしなくなっちゃった。

――つまり、視野が狭くなっていると。

そうですね。先日も、「日本の外交」がテーマの「朝まで生テレビ」に出演したのですが、みな中国と韓国の話しかしないことに驚きました。日本は中東にエネルギーを頼っていますが、中東すら話題にならない。ヨーロッパなんて、ヨの字も出ない。

一方、中国は、アフリカで急速に開発を進めて、存在感を高めていますよね。韓国だって、東アジアに国ごと投資している。昨年カンボジアに行ったのですが、ハングルを掲げている小学校が多いのに驚きました。

日本も実は戦後、そういうことをいろいろやってきた。中東では日本は独自外交を展開してきたし、カンボジアも復興に日本人が大きな役割を果たしている。それなのに、そうした歴史は忘却されている。誰よりも日本人自身が忘れている。若者は、留学どころか海外旅行にも行かず、自宅でネットして「日本最高」と言っているだけ。この気持ち、気風を変えていかないと、復興はないでしょう。

――目先ばかりで、「大きいスケール」で物事を見られる人が減っていると。それは、みんなが目の前の仕事や家族、自分の専門のことばかりを考えているからでしょうか?

経済学者の口癖に、「経済がわからないやつは世の中語るな」というのがありますね。でも、あれって実はどの領域についても言えるんです。専門家が互いに「俺の専門を尊重しないお前らはバカだ」と言い合っても、何もいいことはない。ネット論壇はそういうところですが。

インタビューの(下)は11月19日(月)に公開します。

(撮影:今井康一)

佐藤 留美 ライター
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