北朝鮮、「経済5カ年戦略」で訴えたかったこと 36年ぶりの朝鮮労働党大会で方針はどうなる

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前出の併進路線に加え、経済面では「われわれ(北朝鮮)式経済管理方法」というのが、金正恩時代の路線でもある。この路線は、国家が統一的な指導をすること、工場や企業所など現場が実質的な経営を行うこと、の2つが柱となっているものだ。この2つを踏まえて、国家の中央集権的・統一的な指導を強化するために何が必要か、北朝鮮が考えたうえで、5カ年戦略が出てきたようだ、と前出のパク氏は指摘する。その国家とは内閣であり、経済運営の主体は内閣という、金正恩政権が本格化して以降の経済運営方針に変わりはない。

その点で、党大会での人事において、金第1書記を含む最高指導層である5人の党政治局常務委員の中に、内閣総理(首相)である朴奉珠(パク・ポンジュ)氏が入ったことは、大きな意味を持ちそうだ。内閣が主導し、党がバックアップする経済運営体制をより力強く、スムーズに運営するための布陣とも言えるだろう。

一方で、5カ年計画や5カ年戦略という、時限つきの経済計画や方向性がなぜ出されなかったのか。それについて北朝鮮の経済研究者は、次のように説明する。「1990年代後半の厳しい経済状況、いわゆる『苦難の行軍』時期以降は、現行の問題、目先の問題をどう解決するのかで精一杯で、単年度的な計画、あるいは経済全般をバランスよく運営するような計画が立案できなかった」。

電力や食糧問題の改善こそ目標

故・金正日総書記の晩年から現在の金第1書記政権になって以降、経済状況も徐々に回復したこともあり、「ようやく長期的な戦略を設定し、それを考えながら経済運営を行えるような時期になった」と、同研究者は説明する。それは、これまでになく、かつ変化し続ける経済環境にどう対応していくか、また資本主義国との対外経済を社会主義国である北朝鮮はどう折り合いをつけていくべきか、ということを、北朝鮮がようやく考えられるようになったということだろう。そのため、北朝鮮にとっては、これまでの計画といった経済政策とは別のものとして、今回の5カ年戦略をとらえているようだ。

実は今回の事業総括では、「電力」について何回も言及されている。国民生活、経済活動に必須な、電力が足りないということを、北朝鮮は率直に認めていることになる。そのため、電力問題の解決や回復傾向にある食糧のさらなる安定供給といった内容が、当面の経済運営目標となろう。

金第1書記は「対外貿易において信用を守り、特定の国に一辺倒となる状況をなくし、加工品の輸出と技術貿易、サービス貿易の比重を高める方向へ貿易構造を改善すべき」と述べた。これは、2010年頃から北朝鮮で言われていた内容を再確認したものと思われる。国際社会での北朝鮮制裁が続く中、今回の5カ年戦略の方向性をどう維持し、実行していくか。北朝鮮は今後も難しい経済運営を迫られそうだ。

福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

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