プリンスは、単なる「偶像」ではなく「伝説」だ ボウイ、プリンス、ハガードが音楽界を変えた

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偶像が社会の衝動とトレンドを映し出すのに対し、伝説はそれ以上のものを提供する。スピアーズは、時代を超越して、その遺産が残り続けるアーティストというよりも、特定の時期の産物であるだろう。伝説は単に文化を反映するのではなく、社会を新たな方向へと向かわせるのだ。

米カントリーミュージックのレジェンドとも言われたマール・ハガードさん。2014年撮影(写真: ロイター/ Mario Anzuoni)

マール・ハガードは、1950年代にカントリーミュージックの荒々しい、弦をビーンと鳴らすベーカーズフィールド・サウンドが世に広まるのに貢献。ビートルズやローリングストーンズにも影響を与えた。

彼はその作品に、刑務所での服役など自らが経験した辛苦を織り込んだ。また、「決して働かずに多くを得る連中がいる」などと経済的不平等に毒づく内容の「ビッグ・シティ」などの曲で、困窮する労働者との連帯感を示した。

安住せず正直だったハガード

ハガードは、その伝説的な地位にほとんど背いたことが理由で偶像になったがゆえに、注目に値する。1969年、ヒッピー風に声を張り上げるヒット曲「オーキー・フロム・マスコギー」は、ベトナム戦争に抗議する左翼とともに怒る米国人の聖歌になった。

この歌は彼に富と名声、それにニクソン大統領の賞賛をもたらした。このモードに留まっていれば、保守的な白人にとっての文化的な偶像として、彼の地位はこの上なく安全なはずだった。しかし、そうはしなかった。

彼は「愛は皮膚の色で差別をしない」ことが理解されない世界で、白人男性の黒人女性への愛が挫折するのを描いた「イルマ・ジャクソン」を作曲した。リリースが作曲から数年後の1972年となったのは、レコード会社が彼のイメージを傷つけるのを恐れたからだ。本人は気にしなかったが。

過去の間違いを正すことにオープンでもあった。彼は2000年に作家RJスミスに対し、「オーキー」を作曲した当時よりも、政治的な見解や考えが進化したと説明した。

「あの曲を作った当時、私の知性はアメリカの公衆と同レベルで、ベトナムやマリファナなどについて、とてつもなく愚かでした。絶対に正しいと信じていたことでも、年齢を重ねると、実はそれについて何も知らなかったのだと分かるようになります」

自らの芸術を通じて、プリンス、ボウイ、ハガードは、私たち1人ひとりのアイデンティティの新たな可能性を示しただけでなく、他者とうまく繋がって社会を形づくる方法も明らかにした。

それこそが真の伝説の力なのだ。

著者のリン・スチュアート・パラモア氏は独立系メディア「オルタネット」の寄稿編集者で、金融危機に関するオンラインガイド「リセッションワイヤ」の共同設立者。この記事は同氏個人の見解に基づいている。
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