"理系ママ"、少女の心で世界に挑む 新世代リーダー 上川内あづさ 名古屋大学大学院教授
人の脳だとちょっと複雑すぎるので、最初はなるべく単純な生き物で根本的な原理を理解したいと考えて、ショウジョウバエで聴覚の仕組みを調べています。ショウジョウバエのオスは、羽を震わせて、求愛歌を奏でます。世界中にいろいろな近縁種がいて、種によって羽音のパターンが違っているのですが、自分の種の羽音をいちばん好ましいと感じます。
脳でどういうふうにこのような価値判断をしているのかがわかってくれば、人がある音楽を美しいと思う理由の理解にもつながるでしょう。脳を理解するということは、『自分』を知りたいという人間の究極の欲求に応える、最善の方法の一つだと信じています。
ハエの脳も、パーツを見ると人間の脳と結構似ているところがあります。それがどう拡張され、どう組み上がっているかというところが、ハエと人とで違うところ。だから、ハエの脳をパーツに分解して見ていきたいと思っています。
ハエでパーツに分解して理解できたら、そのパーツが人の脳や鳥の脳ではどういう使われ方をしているのかを調べていきたいです。当分先になると思いますが・・・」
研究者の道を決定づけた東大時代
今でこそ世界トップクラスの研究者だが、初めから研究者を目指して一直線だったわけではない。とりあえず、好奇心の赴くまま、あれもこれもやってみた。東京大学では生物学が学べる理科2類に入り、動物の行動の進化についての講義を熱心に聴いた。サークルでは野鳥の観察会に出かけた。物理も化学も生物どれも勉強したい。そんな“欲ばり心”から、東大で専門課程に進む3年生のとき、薬学部を選択した。
「でも、物理や化学を勉強してみて、やっぱり生物のほうが楽しいと思いました(笑)」
そこで、4年生の研究室配属では、「動物の行動を見ながら脳の研究ができる」ミツバチの研究室を選んだ。巣にいる仲間にえさの場所を教えるような、ミツバチの社会性を支える脳の仕組みを研究しているところだ。始めてすぐに、研究の面白さに気付き、日々、没頭した。
「研究は自分でやってみるまで面白そうだとは思いませんでしたが、実験は実験で面白いし、その先にある研究も、答えがないパズルを解くようで面白かった。卒業研究段階でも、誰も知らないことを知るという感動はありました。
世界で誰もやっていない電気泳動(注:実験分析手法の一つ)をやるとか(笑)それがだんだん、世界で誰も発見していない遺伝子発現パターンを見つけるとか、ちょっとずつ大きく膨らんでいった感じですね。
私は文系一家に育ったので、研究者にそれまで会ったことがなかったのです。だから、人生をかけて研究されている大学の先生などと出会えて、すごくわくわくしました」
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