米国産ガスの対日輸出には限界 米国シェール革命と日本《1》

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--欧州や日本との天然ガス価格差が広がっています。

 

欧州大陸の天然ガス価格は石油製品価格リンクになっており、LNG(タンカーなどで輸送しやすく冷却・液化したもの)を日本と取り合っているため、8~9ドルと米国よりも高い。一方で、欧州債務危機で産業用需要は低迷している。また、米国で天然ガスとの価格競争に負けた石炭が安値で欧州へ輸出され、欧州の発電部門では天然ガスから石炭へ燃料シフトした。そのため天然ガス需要が不振を極め、産ガス国のロシアなどに値下げを要請している。

日本の天然ガス価格は欧州と同様、原油価格リンクだが、欧州のようにパイプラインでロシアなどの産ガス国とつながっておらず、LNGとして100%輸入しているため、欧州のさらに倍近い値段となっている。

LNGの液化産業は産ガス国政府・国営ガス会社と大手国際ガス会社(メジャー)により高度に寡占化されている。つまりLNGの売り手が限られており、値下げ交渉が難しい。価格交渉面で圧倒的に不利にあるといえ、日本の天然ガス価格は下がりにくい。

ただ、もし日本の電力会社が、天然ガス火力より燃料費が3分の1~4分の1と安い石炭火力へシフトし、規制当局がゴーサインを出せば、天然ガスの時代どころか、石炭の時代が来てしまうという皮肉な展開もありうる。

--米国の安い天然ガスを輸入できないのでしょうか。

量的に大量に入るかどうかは現状、疑問がある。米国内でも生産業者は輸出増大によって需要先を作らないと価格が上がらず、開発も進まないと言っているが、オバマ大統領は輸出拡大に対して明確な態度を示していない。

背景として、輸出に反対する勢力の存在がある。その主たるものが石油化学業界。彼らは天然ガスから得られるエタンやLPG(液化石油ガス)の成分を使って、エチレンなど石化製品を製造し、輸出している。そのため、シェールガス産出地域近くに石化工場を建設する計画を打ち出し、エチレンでは現状の4割増に生産能力を増強しようとしている。彼らとしては、国内の天然ガスが無制限に輸出されると、国内の需給が引き締まり、原料価格上昇につながるとして強硬に反対している。

そのため、オバマ政権は板挟みとなり、判断を下せない状況にある。石化業界は政治力が強く、輸出が認められたとしても、かなりの制限が加わる公算が大きい。日本のようなFTA(自由貿易協定)の非締結国は審査も厳しい。そのため、日本に来る天然ガスの量も限られるのではないか。

また、LNG基地の建設承認も環境影響評価などで厳しく、(昨年輸出承認が下り、インド、韓国、英国、スペインへの輸出が決まった)サビンパスLNG基地(ルイジアナ州、15~16年に稼働予定)の後は承認が下りていない。

 

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