日銀はもはや、円高に対して無力に等しい 為替を楽観している製造業を株安が襲う

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専門家は為替予測に際して、もっともらしい説明を加える。たとえば米ブルームバーグ・データによると、消費者の購買力を基準にすれば、円はドルに対して約3割過小評価されている、という。この過小評価の規模は主要16通貨中で2番目の大きさなのだそうだ。

しかし、こうした見方を信じて通貨トレーダーが勝負しても、失敗することは多い。成功するトレーダーは数分ないしは数秒の非常に短いトレンドの変化を注視して取引を行う。

円ドル相場と日経平均株価との上下動との間には過去9年間、89%もの相関関係があった。2012年秋以降の相関関係は97%にまで達した。円安になればなるほど、海外に拠点を持つ日本の大企業の利益は増える一方、円高になるほど、利益が減って株価は下がる。

「バラ色のシナリオ」の罰

興味深いことに、円相場に関する「バラ色のシナリオ」を描こうとした企業は、株式市場からしっぺ返しを受けた。

たとえば、4月1日のパナソニックの株価は、前日比12%安と急落した。3月31日に2016年度(今期)の営業利益が前期比9%減るとの予測を示したこと自体よりもむしろ、その前提となる今期の想定レートを1ドル=115円と、甘い水準に設定していることが嫌気された。円がその水準よりも高くなれば、利益はさらに減るのだ。

パナソニックだけではない。 4月1日発表の日銀短観によると、製造業の大企業の想定レートは平均で同117円となっている。彼らは正しいのかもしれないが、市場を動かす者達はそれに賭けようとはしないだろう。

週刊東洋経済4月23日号
 

リチャード・カッツ 東洋経済 特約記者(在ニューヨーク)

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Richard Katz

カーネギーカウンシルのシニアフェロー。フォーリン・アフェアーズ、フィナンシャル・タイムズなどにも寄稿する知日派ジャーナリスト。経済学修士(ニューヨーク大学)。目下、日本の中小企業の生産性向上に関する書籍を執筆中。

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