「正常化」の兆し見えた日本株とドル円相場 好転するといっても辛抱が必要な歩みになる

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もう一つ円高の理由とされていたのは、2月のG20会合で米ドル安を進めるという「密約」がなされ、日本は追加緩和の手を縛られてしまったうえ、円売り介入もできなくなった、という観測だ。さらに安倍首相が、6日付のウォール・ストリート・ジャーナルとのインタビューで、「通貨安競争は絶対避けなければならない」「恣意的な為替市場への介入は慎まなければならない」と述べたと報じられ、そうした観測に勢いをつける結果となった。

しかし安倍首相の発言は一般論であり、通貨安競争を避けるという文言の主語は「日本」ではなく「各国」だ。むしろ、年初から世界市場を混乱させた中国の元安政策を牽制した、と解釈するのが妥当だろう。介入については、当然のことながら、円を人為的に押し下げ続けるような介入など許されようもないが、G20は「過度の為替相場の変動は好ましくない」という認識も共有している。

実際IMF(国際通貨基金)のラガルド専務理事は、14日の記者会見で、足元の円高について「日本の市場を注視」しており、急激な為替変動があった場合は「為替介入は正当化される」と述べている。また金融政策については、14日からのG20(米国・ワシントン)に参加している麻生財務相は、会合の席上、通貨安競争の回避は「マイナス金利など金融政策を制約するものではない」と述べている。

水準訂正の旅路は二進一退のペース

先週になってようやく、行き過ぎた円高・米ドル安から正常状態への復帰がゆっくりと始まり、それに沿って、世界の明るい流れに取り残されていた日本株の、売られ過ぎから正常状態への回帰が始まった。前述の今年初を100とした数値で、日本株は15日には88.0まで回復し、ユーロ圏(88.7)やインド(87.9)とほぼ同水準に追いついた。

とは言っても、日本株を爆発的に押し上げるような材料もない。今週から徐々に企業収益発表が本格化し、企業側は(いつものことだが)極めて慎重な今期の収益見通しを出してくるだろう。そうした慎重さはかなり市場では想定されており、むしろ当面の決算発表シーズンを過ぎれば、かえって収益見通しの上方修正局面入りする、との観測も有力だ。しかし決算発表は、目先の株価には元気を与えそうもない。為替相場も、日本政府が本当に介入できるか試してやろう、との円高の仕掛けが入る可能性は、相当低下したとはいえ、完全には払拭できない。事実、15日の欧米市場では、円高気味の動きが再燃している。

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今後の日本株の上方への水準訂正の旅路は、一歩一歩ゆっくりと、あるいは二進一退の、辛抱が必要な歩みとなろう。こうした流れの中に今週を位置づけ、日経平均の18日(月)~22日(金)のレンジは、1万6400円~1万7300円を予想する。

ところで、市場分析や経済分析においては、よく耳にする通説が多い。たとえば「サマーラリー」といったたぐいだ。先行きを考えるうえで、そうした通説を頼りにしたり、あるいは疑ったりすることがあるだろう。通説が信頼に足るかはデータで客観的に検証することが必要だ。22日に発売する拙著『勝率9割の投資セオリーは存在するか』では、日米株式市場や為替相場、日米経済など幅広い分野において、さまざまな通説を検証している。是非参考にしていただきたい。

馬渕 治好 ブーケ・ド・フルーレット代表、米国CFA協会認定証券アナリスト

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まぶち はるよし / Haruyoshi Mabuchi

1981年東京大学理学部数学科卒、1988年米国マサチューセッツ工科大学経営科学大学院(MIT Sloan School of Management)修士課程修了。(旧)日興証券グループで、主に調査部門を歴任。2004年8月~2008年12月は、日興コーディアル証券国際市場分析部長を務めた。2009年1月に独立、現在ブーケ・ド・フルーレット代表。内外諸国の経済・政治・投資家動向を踏まえ、株式、債券、為替、主要な商品市場の分析を行う。データや裏付け取材に基づく分析内容を、投資初心者にもわかりやすく解説することで定評がある。各地での講演や、マスコミ出演、新聞・雑誌等への寄稿も多い。著作に『投資の鉄人』(共著、日本経済新聞出版社)や『株への投資力を鍛える』(東洋経済新報社)『ゼロからわかる 時事問題とマーケットの深い関係』(金融財政事情研究会)、『勝率9割の投資セオリーは存在するか』(東洋経済新報社)などがある。有料メールマガジン 馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」なども刊行中。

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