縮小する被災者への支援策(前編)--福島市やいわき市、郡山市、福島県広域連合が医療費免除打ち切り

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中小零細企業の従業員が加入する協会けんぽ(全国健康保険協会が運営)は、国による財政補助が2月末で終了した後も独自の判断で一部負担金の免除を続けてきた。しかし、「財政負担が大きい」(企画グループ)ことを理由に9月末で支援策を取りやめる。

介護保険でも対応のバラツキは大きい。岩手県や宮城県では支援対象者のいるすべての市町村が13年3月末まで利用者負担金の免除措置を継続するのに対して、福島県内では福島市やいわき市、郡山市など人口の多い自治体が9月末で免除措置を打ち切る。反面、南相馬市などは被災者に配慮して免除を続ける。ただ、介護保険については福島県が集計していないことから、市町村全体の動向はつかめていない。

保険料(保険税)の減免についても厚労省の支援措置縮小に合わせて、多くの自治体が支援措置を9月末で終了する。国保保険料の減免を続ける自治体は、岩手県では陸前高田市や金ヶ崎町などごく一部。福島県でも南相馬市や須賀川市など5市町にとどまる。宮城県ではすべての市町村が減免を終了する。

津波や地震で住宅が全半壊するなど住民が甚大な被害を受けたにもかかわらず、このように支援策に格差が生じるのは、「10月以降は一般の災害復旧時の支援ルールに戻る」(厚労省国保課)という国の方針転換が主因だ。国保や高齢者医療、介護保険については、被災3県や市町村、高齢者医療広域連合から10月以降も自己負担の免除に必要な財源の全額負担を求める要請書が厚労省や復興局に提出されている。また、県議会や後期高齢者医療広域連合議会などでも、住民が提出した署名を踏まえて国の財政負担継続を求める意見書が相次いで採択されている。

にもかかわらず、厚労省の方針が転換することはなかった。厚労省は「阪神大震災や中越地震時と比べて国の支援措置が長期化していることや震災後の所得水準を元に保険料や自己負担割合が決まるようになったこと」(保険局高齢者医療課)などを理由に挙げている。ただ、被災者の実情を踏まえているとは言いがたい。

 こうした国の動きについては、医療関係者からも「被災者の健康状態や生活再建の進捗の遅れから見ても支援措置の縮小は時期尚早。被災地の実態を踏まえていないやり方だ」(北村龍男・宮城県保険医協会、右写真)との批判がされている。全日本民主医療機関連合会の長瀬文雄事務局長は「10月以降、必要な医療を受けられない人が出てくるのではないか」と危惧する。

震災復興予算がさまざまな名目で全国に振り向けられる一方で、生活再建に必要な支援策が十分に講じられているとは言いがたいのが被災地の実情だ。10月以降、医療や介護でもそうした矛盾が一挙に顕在化する。

※タイトル横写真:津波被害が大きいいわき市の久ノ浜地区。住宅を失った人も9月末で医療・介護費の免除は終了

(岡田広行 =東洋経済オンライン)

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