地域限定商品の比率は、2017年までには50%(!)に引き上げる。地域の特性を考慮したうえで、各店舗では、商品仕入をかなり細かく実施する。かつてはコンビニによって地域文化が損なわれるとも懸念されたものの、現状は、その逆に進んでいるのである。
実際に鈴木氏は、オムニチャネルの概念すらはっきりしなかった1992年に、すでに同種のアイデアを述べている。そこでは、販売者側の都合をいっさい廃し、消費者の都合を中心とした生産と流通をすべきと説いた。もちろん比喩としてではあるものの、鈴木氏は小売の理想は”受注生産”とまで述べた(雑誌『2020AIM』1992年12月号)。これはマス・カスタマイゼーションの小売版を予期していたといえなくもない。
なお、前述のPOS活用も、セブン-イレブンの地位を高めるのに貢献した。それまで、売れ筋情報などをもっているのは問屋だった。むしろ、問屋の情報は、セブン-イレブンからもたらされるものとなり、立場が逆転した。小売のコンビニエンスストアこそが最強である、というあざやかな逆転は、客観的に見ても、鈴木氏の功績が大きい。
三本柱以外にも基本に忠実だった鈴木氏
また、あえていうまでもなく、前述の三つの金字塔以外にも、商品の魅力を徹底的に追求したことを付け加えておく。価格訴求には限界があるが、価値の訴求には限界がない。こう考えたのが鈴木氏だった。多くの著作や雑誌などで、すでに繰り返す必要のないくらい述べられているように、おにぎりやサンドイッチ、弁当類、すべてにいたるまで、愚直で感動的なほどの商品性向上が繰り返されている。
鈴木氏の特徴は凡人的思考法である。「一般感覚で普通に考える」という形容詞があてはまる。発言を追っていくと、奇妙な感覚にとらわれる。たとえば、ダイエー創業者である中内功さんのインタビューには当時における先端の小売業単語が並んでいる。
一方、鈴木氏のインタビューには小売業特有の用語はなく、その種の難解さはほとんどない。通常の単語で、そしてまっとうなことのみが並んでいる。おそらく、これは鈴木氏が大衆、つまり一般生活者と同等の思考を続けてきた証左だろう。
その発意に先見性があったのもたしかだ。鈴木氏は30年以上前から、成熟社会の消費者は、モノを所有しなくなると予言していた。これは、いまでいうシェアエコノミーだろう。そしてシステムも集中型でないものを志向していた。これは、いまでいうところのクラウドにつながる。
繰り返すと、鈴木氏はそもそもコンビニエンスストア業務を、周囲の反対にあいながら始めた。それゆえに、イトーヨーカドーからの資金援助をあてにせずにスタートするしかなかった。だから、鈴木氏のなかでは、事業をいかにキャッシュ・スモールでまわすかと考えるのは必定だった。
だからこそ、リスクを分け合うフランチャイズ制がはまったのだし、プライベートブランド(PB)などメーカーとの協業もそうだし、システムについても、自前主義というより協業主義に傾いていった。それが、結果論とはいえ、所有からシェア、という、現代的な潮流と合致していた。
鈴木氏の業ともいうべき宿命が、コンビニエンスストアの可能性を偶然にも拓いた、というのが私の結論だ。鈴木氏の引退後も、各産業が入り乱れて、コンビニエンスストアという業界を中心にぐるぐるとビジネスが起こり続けるだろう。それは、集中から分散へ、所有からシェアへ、単独から集合へ、個からつながりへ、という時代のトレンドと共鳴しながら拡大していくに違いない。
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