JAL上場後も続く公正競争論の裏側

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結局、これは前原誠司・国土交通相(当時)の2社体制維持の意向や、政府に“三顧の礼”で迎えられた稲盛名誉会長の「国際線のないJALはイメージしにくい」といった発言が影響して実現せず、現在のスキームに至った。

いったん株式上場による出口戦略が取られれば、大胆なリストラなどで収益力を徹底的に強化し、上場時の企業価値最大化を図るのは当然の流れ。しかし、それでJALが大幅な利益を実現してしまったため、今度はANAが押される立場になった。健全な競争を目指すために、2社体制維持の再生手法が取られたが、逆にそれが公正競争論議を呼ぶとは何とも皮肉である。

夢に終わる国際線1社化

国会の国土交通委員会では、「私は(国際線の)キャリアは1社でいいと思っている。2社やっているような余裕はない」(自民党議員)と、現在も1社体制を望む議員は少なくない。1社体制の肯定派は、経済危機やテロなどイベントリスクで業績が急悪化した際には、耐久力は企業規模が大きいほうが高くなるという考え方だ。だが、その根拠は不明確だ。

空運業は供給量を拡大するときには必ず、航空機や空港施設、人員などのコストも増える「費用逓増型」であり、企業規模が拡大しても1座席当たりのコストは基本的に変わらない。実際、運賃半額を実現しているLCC(格安航空会社)は大手より小粒の企業が大半を占める。

また、航空2社が統合すればイベントリスクに対抗する自己資本のクッションも厚くなると考えられるが、自己資本や売り上げとともにコストや赤字幅も2社分になるため、効果は不明だ。

IATA(国際航空運送協会)のトニー・タイラー事務総長は9月19日の来日会見で、「米国やEU、中国は複数の大手グループが形成されており、世界3位の巨大な市場である日本にも二つの大手を支える需要がある」と述べた。

ANAは、JALの再建進展を確認した後は国際線1社化の構想を断念。現在ではJALの法人税免除廃止や公正競争ガイドラインといった現実策の実現に舵を切っている。今後の政局もにらみ、双方のつばぜり合いはまだ続きそうだ。

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(野村明弘 撮影:梅谷秀司 =週刊東洋経済2012年9月29日特大号)

記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。

 

野村 明弘 東洋経済 解説部コラムニスト

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のむら あきひろ / Akihiro Nomura

編集局解説部長。日本経済や財政・年金・社会保障、金融政策を中心に担当。業界担当記者としては、通信・ITや自動車、金融などの担当を歴任。経済学や道徳哲学の勉強が好きで、イギリスのケンブリッジ経済学派を中心に古典を読みあさってきた。『週刊東洋経済』編集部時代には「行動経済学」「不確実性の経済学」「ピケティ完全理解」などの特集を執筆した。

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