JR東海が「不通路線」を復旧した本当の理由 6年半の歳月経て名松線が運転再開

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復旧に向けた運動は三重県全体に広がり、2009年11~12月に11万6268人の署名が集まった。沿線人口をはるかに超える数字だ。

沿線住民の要望に対して、JR東海は「鉄路の維持は社会的使命。赤字という理由だけで廃線にすることはない」としながらも、「鉄道を元通りにするだけでは安全運行できない」と、懸念を示した。「家城―伊勢奥津間は山林を含めた周辺部が鉄道に与える影響が大きい。治山、治水対策は、県や自治体が責任を持って復旧してもらいたい」。

せっかく鉄道を復旧しても、周辺の山の斜面が再び崩れるようなことがあれば、元の木阿弥だ。JR東海のスタンスは、周辺が整備されなければ、このままバス転換もやむなしというものであった。

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伊勢奥津駅で運行再開出発式が行われた

一方、県と市のスタンスは「運行ができないほどの危険性はない」として、周辺対策には消極的だった。が、JR東海、県、市という三者会談が何度も繰り返され、ようやく県が治山対策、市が水路整備対策を行なうという方向性が定まった。これを受けてJR東海も鉄路復旧に合意し、県、市、JR東海との間で三者協定が締結された。2011年5月。被災から1年7カ月が経過していた。

運転再開までの期間は日本記録

工事は2013年5月にスタートし、今年2月に完了。その後の乗務員の訓練運転を経て運転再開にこぎつけた。「被災から6年5カ月かかっての再開。この長さは日本記録」と、前葉泰幸・津市長は言う。確かに東日本大震災による被災で、駅舎や橋が流された三陸鉄道ですら、3年で全線復旧にこぎつけた。その2倍を超える長い年月、名松線の沿線住民は応援を続けていた。

費用総額は17億1000万円だ。三重県が5億円、津市が7億5000万円、JR東海が4億6000万円を負担した。津市の負担額は当初、県と同額の5億円を負担する予定だったが、「下流の整備も必要となり、当初計画も費用が膨らんでしまった」(市の担当者)。

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