(第3回)<小林崇さん・後編>いつかツリーハウスを使って学校のようなものを作りたい

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●物事には表と裏があり、毒があるから魅力

 目の前に木があって、そこにツリーハウスを作るときだけは、自分を出していたい。そこでは大人の筋書きみたいなものは、あるんだけど、なるべくないようにしていたい。  ツリーハウスを通じて、未来を担う子ども達に、僕らの頃にはあった、「学校から家に帰るまでの空気感」を味わせてあげられればいいな、と。

 ツリーハウスが好きだから、木を大切にしたいし、木がある森や自然のことも考えます。自然のよさというのは、毒があるからいいわけで、命をとられるかもしれない生き物がまだ野生でいるからいいのです。そういう、どぎついものがあるから、そうじゃないものが目立てるわけで。毒をなくして、いいとこどりをしていたら、毒にも弱くなってしまう。今は、人も親も子どもも、みんな、社会全体が無菌状態ではないけど……。僕は毒を持っていたいと思うのです。

 何事にも裏も表もあるように、ツリーハウスを作ることでも毒を隠したくはないのです。たとえば、自分が遊ぶために木に穴をあけていくのもどうなのか?といわれてしまえば、それもそうだと思うし、嘘はつきたくない。 言っていることとやっていることに、みんな無理があるから、子どもは純粋なので気がついてしまう。ゲームソフトを作っているのは子どもじゃない。そういうのを作って商売をしておいて、自然の中にいきなさいって言ったとしても、ちょっとそれは無理がある。

 だから、ツリーハウスを作るときは、嘘もつきたくないし、そのときの心に素直に、妥協もしたくない。木は一つしかないし、ニーズも一個しかない。一期一会なので、同じものは二度とない。

 今、たとえば自分の子ども達に、「法律だから」「普通だから」と、そのまま学校に進学させてよいのか、疑問に思うところがあります。教育って何だろう? 親がすること、学校がすることは何だろうと考えていると、「社会が教えてくれる教育」というものが今はない気がします。ものすごく漠然とだけど、ツリーハウスを使って学校みたいなものができればよいなと思っています。経営は嫌だけどね……(笑)。
 こうでなければいけないというものがないのがツリーハウスの世界だし、俺の生き方だから。自由な俺の生き方の象徴……それがツリーハウスなのです。切ない子ども時代を経て、30歳を過ぎてから出合ったものだけど、これに出合えた今は、とても幸せだと思っています。
(取材:田畑則子 撮影:戸澤裕司


小林崇<こばやし・たかし>
1957年静岡県生まれ。ツリーハウスクリエーター。
スタイルとデザイン、感性をコンセプトにしたツリーハウスを創作する日本のツリーハウス第一人者。
'94年、ツリーハウス建築の世界的権威ピーター・ネルソンに出会い、毎年オレゴン州で開催されるツリーハウスの国際イベント「WTC(World Treehouse Conference)」に日本から唯一参加するようになる。世界中のツリーハウスビルダーや樹木医と交流しながら、最先端の技術やデザイン、樹木学等を学び、ツリーハウス情報を共有している。
2000年、ジャパン・ツリーハウス・ネットワーク(JTN)を立ち上げ、'05年には有限会社ツリーハウス・クリエーション(THC)を設立。
沖縄から北海道まで、各地の風土・樹木に適したツリーハウスの制作にあたっている。
また、東京・原宿の木造アパートを、路地裏に立つヒマラヤスギを取り囲むような空間に改装。現在は、ツリーハウスの情報を発信し、グッズ購入や飲食なども楽しめるサロン「HIDEAWAY」として運営。http://www.treehouse.co.jp/hideaway/
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