(第8回)<室井佑月さん・後編>学校が子どもの心の問題までケアできるわけがない!

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(第8回)<室井佑月さん・後編>学校が子どもの心の問題までケアできるわけがない!

●ノンキャリの熱血先生

 中学時代、担任の先生でひとり印象的な人がいます。その先生はいわゆる大学というものを出ていなかった。どんなに優秀でも教頭先生までしかなれず、年功序列で定年間際にようやく教頭先生になれたという人なのですが。教師という仕事を一生懸命やっていて、プロだと感じ、なかなか好きでした。
 私は、家に教科書を持って帰ったことがない。だって、重いじゃない(笑)。学校の成績が悪かったから、何度か先生が家庭訪問にやって来たのですが、家には教科書もない、机もない、参考書もないというので先生はすごくビックリしていた。そのときに、「何でそんなに勉強が嫌いなんだ?新しい世界を知るのは楽しくないか?」と言われたのだけど、私は「まるで楽しくない。大人になって興味があることができたら、そのときに勉強すればいいかもしれないけど、今は楽しくない」と。また、夏休み・冬休み・春休みなど出される宿題はやったことがない。「何でいつもやってこないんだ?」と聞かれ、「だって先生、一ヶ月かけてやるんだったら私は先生に一発殴られた方がまだいい」って答えたの。そういうと、「翌日もやってこなかったらまた一発殴る」ってね。「でも先生、ずっと私を毎日殴り続けるってことはないでしょう?」といったら、大笑いしちゃって(笑)。最後は怒らなかった。ちゃんと理由があるんだからしょうがない。
「お前はすごくわがままだけど、案外、旦那さんの気持ちがわかるいい奥さんになるかもな。すぐにお嫁にいったほうがいいかもな」って言われてね。

 小説のなかに、学校の話を書けるのは、学校のことをすっごくイヤだと思っていたから。普通に学校は居心地良いという人だったら、そんなに強烈に覚えてないから書けない。学校の何が嫌かというとまずトイレが嫌だった。だから、すごく克明に覚えている。学校のトイレはたいてい床下がビチョビチョで、上履きは底が浅いから靴下まで濡れそうでイヤなわけ。だからトイレに行きたくなると家まで帰っていた。そうすると、もう学校に戻りたくなくなる。でも、このことをいくら他の先生に説明しても解らない。「なんだそれは? みんなも使っているだろう!」って言うの。でもね、それはみんながしているから合わせろという意見であって、私が質問したことの答えじゃないのよ。みんなは気にならないかもしれないけど、私はすごく気になるわけで……。だけど、その担任の先生だけは、「それなら、職員室を使えばいい」と。職員室のトイレはキレイだったからね。

●人間誰しも平等である?わけがない!

 学校の先生が言ったことでおかしいなと、未だに思い出すことが2つある。ひとつは、「人間誰しも平等である」ということ。はっきり言って平等であることの方が少ないのが現実で、そうしたら、そういう教え方をしてはいけないわけなのよ。「平等なんてない、だけどお前は差別をするような人にはなるな」と。しかも日本に生まれて、飢えも知らない、戦争も知らない、というだけでも感謝しろ。そんなところから始めなきゃいけないし、「だからご飯も残すな、飢えている子もいるんだから」って言える。生まれた家によって、スタートラインも違うのに、あんまり平等精神を叩きつけるから、子ども同士が間違い探しを始めたりするんだよね。だから「平等なんてない、だけど差別をする人間は恥ずかしい人間だ」という教え方の方がいい。

 それから、「友達が多い方が優秀である」っていう考え方もおかしい。一番多感な時期である中学や高校時代に、友達といつもつるんでくだらない話ばかりしているような人間なんかダメだね(笑)。私のお友達でもいたけど。そうじゃなくて、ひとりで膝を抱えて「人生とは?」なんて深いことを考えている人間の方が後々いいわけ。仲がいい人なんてひとりいればいいわけよ。
 たまたま私には息子がいる、たまたま東京に住んでいる、たまたま同じ地区の小学校に通っている、たまたま同い年で、たまたま同じクラスで……って、たまたまの中で仲良くなれそうな子をみつけられたら、それはすごくラッキーなのだ。だけど、たまたまの中から無理やり仲のいい子をみつけなくてもいい。喧嘩する必要もないし、みんな気が合わないのはしょうがない。私はそう思う。だって息子もキライかもしれないけど、向こうも息子をキライかもしれない。だけど、同じクラスになったことはしょうがないことなのだから、我慢しろと言う。「無理やり仲良くしろ」とは言わない。

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