なぜ震災前後で一変?台南ビル倒壊地域の今 日本からの支援が他を圧倒した根本理由

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台南市のビル倒壊現場とその前を走る永大路。人通りが目に見えて少なかった

現地を訪れて気づいたことがあった。それは、すでに現場一帯から完全に瓦礫は撤去されているというのに、車や人の往来が異様に少なかったことだ。

筆者もかつて何度かこの永康地区を訪れたことがあったが、台南市のベッドタウンで近くに工業団地もあることから、人口が急増している地域だった。永大路の道路の両脇には飲食店などが立ち並び、朝晩になれば、多くの車や人でにぎわっていた。その一帯が、夕方のラッシュ時であるのに、いやに静かで、閑散としているのだ。

郭議員によれば、事故のあいだに車や人の流れがすっかり変わってしまい、ビル撤去後も戻ってきていないという。その最大の理由は、台南の人々の間で「幽霊が出る」「縁起が悪い」といううわさが広がっている、ということだそうだ。いわく「子供が哭く声が聞こえた」「夜、跡地の上で手を振っている人の姿が見えた」などなど。

そんなありとあらゆるうわさ話が広がり、台北などの人々に比べて宗教心が強く縁起をかつぐ傾向のある台南の人々は、現地に近寄らなくなったのだという。事故現場の近くで雑貨を売る店のご主人に聞くと、売り上げは事故前の半分にも戻っておらず、近くには店を畳んで移転することを考えている経営者も少なくないという。

文化財への影響も徐々に明らかに

一方、古都である台南市では、地震による文化財への深刻な打撃が、調査が進むにつれ明らかになっている。3月上旬に台南市政府がつくった「台南市文化資産災損統計表」によれば、「国定古蹟」が6カ所、「市定古蹟」が28カ所、「歴史建築」が5カ所、それぞれ被害を受けたという。

そのなかには、台南観光の目玉としても有名な「孔子廟」「武廟」のほか、日本統治時代の建築である「元台南州庁」「元気象台」「元台南愛国婦人会館」「元台南武徳殿」なども含まれているという。

現在、台南市は修復の必要性と予算などについて取りまとめている最中だが、義援金の一部がこうした文化財の修復に用いられる可能性もあると見られる。破損した部分を放置すると歴史の古い建物だけに劣化を早める可能性もあり、早急な復旧を目指したいとしている。

現在台南では、地震による一種の”風評被害”が懸念されている。一部の文化財に破損が見られるものの、全体部分には目に見えた被害は出ておらず、観光や訪問には影響がないことが強調されている。

野嶋 剛 ジャーナリスト

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のじま つよし / Tsuyoshi Nojima

1968年生まれ。上智大学新聞学科卒業後、朝日新聞社入社。シンガポール支局長、政治部、台北支局長などを経験し、2016年4月からフリーに。仕事や留学で暮らした中国、香港、台湾、東南アジアを含めた「大中華圏」(グレーターチャイナ)を自由自在に動き回り、書くことをライフワークにしている。著書に『ふたつの故宮博物院』(新潮社)、『銀輪の巨人 GIANT』(東洋経済新報社)、『ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち』(講談社)、『台湾とは何か』(ちくま書房)、『タイワニーズ  故郷喪失者の物語』(小学館)など。2019年4月から大東文化大学特任教授(メディア論)。

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