アジアの鉄鋼業界 需要底割れ懸念は後退したが、引き続き競争圧力強い 《スタンダード&プアーズの業界展望》
日本メーカーの稼働率の低迷続く
鉄鋼大手4社<新日本製鉄(A−/ネガティブ/--)、JFEホールディングス、住友金属工業、神戸製鋼所(以上3社は格付けなし)>の2009年度第1四半期(2009年4~6月期)業績は、いずれも営業赤字に陥る厳しい内容となった。2008年度後半からの急激な需要減退を受けた減産が継続したことや在庫評価損の計上を余儀なくされたことが響いた。一方で、鉄鋼需要の底入れが明確になりつつあることを背景に、非鉄鋼部門の比重の高い神戸製鋼を除く3社が第2四半期には業績が回復に転じると見込んでいる。
鋼材受注は依然、前年同月比で大幅なマイナス推移しているものの、国内自動車向けや電機向けなどでは2月を底にマイナス幅が縮小しており、また輸出も同様の傾向にある。これを受け大手各社の間に減産緩和の動きが出始めており、新日鉄では2009年2月以降休止していた大分の高炉を8月に入って再稼働させた。主要顧客との価格交渉の結果、販売価格は下落するものの、鉄鉱石などの原材料価格も前年比で大幅に下落するうえ、相当のコスト削減効果が期待できるため、マージン(利幅)が大幅に悪化する可能性は低い。
日本の鉄鋼大手は、高い技術力を背景とした高級鋼主体の事業構造と、自動車をはじめとする国際競争力のある優良顧客との緊密な取引関係によって、強固な収益基盤を構築している。日本の鉄鋼業界とそのリーダー企業である新日鉄のこうした強みは、本質的に変わっていないとスタンダード&プアーズは考えている。しかし、生産量が過去のピーク時に近い水準に安定回復するには相応の時間がかかるとみられることから、各社とも今後1~2年は稼働率が低迷し、収益圧迫を余儀なくされるとスタンダード&プアーズは考えている。
この見通しを反映してスタンダード&プアーズは6月24日、格付けを付与している新日鉄について、長期会社格付けのアウトルックを「安定的」から「ネガティブ」に変更した。鉄鋼大手4社はいずれも、ここ数年、旺盛な需要取り込みや海外での中期的な成長を求めて投資を積極化していたために、有利子負債が増加していることから、需要の本格回復が遅れればキャッシュフローの低迷が長期化し、財務負担がさらに増すことになる。