シャープと鴻海、偶発債務で拭えぬ不信感 調印寸前で「待った」がかかった買収劇の帰趨
2012年の件について鴻海側の理解としては、ゴウ氏とシャープの町田勝彦相談役、片山幹雄会長(肩書はいずれも当時)で協議し、合意時の1株550円でなく(それより低い)時価で出資することに承諾した、というもの。にもかかわらず、シャープはこの出資を実行させることなく、2013年3月には共通の敵と位置づけていた韓国・サムスン電子から、1株290円で出資を受け入れている。
当時、鴻海はシャープへの提訴も検討しながら、同月にゴウ氏と奥田隆司社長(当時)が会談し、「訴訟を回避し協業を誠実に進める」と合意したことでいったん決着。が、2013年6月に奥田氏が退任、高橋興三氏が社長に就任し、奥田氏の約束した協業はまったく継続されなかった。
さらに2012年7月、ゴウ氏は個人でシャープの液晶パネル生産会社(堺ディスプレイプロダクト)に660億円出資したものの、出資後に明らかになったのは不良在庫の山だった。今回、未知の債務を発見したら、たとえ少額かつ発生可能性が低くても、警戒感をあらわにするのは当然だ。
買収決まれば鴻海が圧倒的支配
鴻海は3月初頭にシャープへ人員を派遣し、債務内容を精査している。鴻海はリストを理由に提携を断念する気は皆無だが、精査の結果次第では、出資基準の株価の引き下げを求めるかもしれない。リストに数件でも報告漏れがあれば、企業価値の評価を下方に見直す根拠になるからだ。
鴻海と買収で競った産業革新機構がシャープにつけた、1株50円の価格まで落としてきたら、「間違いなく破談になる」(銀行関係者)だろうが、そこに至らない程度の減額要請は十分ありうる。
銀行団は、シャープが3月末に期限を迎える負債5100億円の返済について、万が一調印が大幅にずれ込んでも、短期のタームローンなどで支援する方針。ただ前提はあくまでも「鴻海の買収意欲が揺らいでいない」ことだ。
買収が決まれば、鴻海はシャープ取締役の3分の2超を選任し、カネと人の両面で圧倒的な支配力を持つ。革新機構が買収合戦から降りた以上、鴻海と対等に交渉できる余地は、もはやシャープに残されていない。
(「週刊東洋経済」2016年3月12日号<7日発売>「核心リポート01」を転載)
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