アカデミー賞で「白人偏重」が騒がれたワケ ハリウッドの黒い歴史が司会を熱くさせた
彼らのように、セレブがエンタメと政治を結びつける伝統は、今回の授賞式でも目立った。ロックの辛辣な皮肉に加え、歌手のレディー・ガガは性的暴力反対を訴えるパフォーマンスを行い、彼女とともにバイデン副大統領が大学キャンパスでのレイプ撲滅を呼びかけた。レオナルド・デカプリオは地球温暖化の防止を強くアピールした。
アカデミー賞は1929年、労働争議緩和やハリウッド映画の芸術性向上を目的に創設された。毎年の授賞式はその後30年間、映画産業が大衆や政治的指導者に気に入られるようにするためのイベントであり続けた。
「風と共に去りぬ」で1940年に助演女優賞を受けた黒人俳優ハティ・マクダニエルは、共演者とは別のテーブルに待機し、受賞の際に壇上まで歩いた。会場となったホテルのポリシーで隔離されていたのだ。彼女はスピーチで、彼女が属する「人種と映画産業」に貢献したいと力強く語ったが、政治的な発言は雇用契約で制限されていた。
特に1940年代は、公民権のように社会的分裂につながりそうなことを話すと、契約を切られる恐れがあった。実際に戦後の「赤狩り」により、ハリウッドの脚本家やプロデューサー10人が職を失っている。
残る「社交的な差別」
しかし、60年代になると、ハリウッドも変わった。新たな法律や反トラスト法によって、従業員が公的活動に参加しやすくなった。特にアフリカ系米国人は人種の平等のような話題に関する発言を始め、ベラフォンテらがキング牧師の活動を支援するなどした。
こうした行動は黒人と白人の双方のセレブを勇気づけ、差別撤廃のためのワシントン大行進やベトナム反戦、ネイティブ・アメリカンの権利保護などの運動につながった。
ただ、ロックは、ハリウッドでは依然として「社交的な人種差別」が続いていると語った。彼によると、その差別は、女子学生の交流クラブで黒人女性が、こんなことを言われる感じだ。「みんなあなたのことが好きよ。でもね、あなたはKappa(優等生を指すスラング)じゃないの」。
28日の朝には、大統領選の共和党最有力候補ドナルド・トランプ氏が、白人至上主義団体「クー・クラックス・クラン(KKK)」の支持を受けたかどうか明確には否定しなかった。その日の夜のアカデミー賞授賞式で人種差別について踏み込んだ話題が出たことは、政治をエンタメにしてしまっているトランプ氏と、無関係ではなさそうだ。
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