新線ラッシュの関西鉄道、運用状況は明暗くっきり《鉄道進化論》
そもそも沿線開発が進む阪神は、関西私鉄の中で唯一、輸送客数を伸ばしている。「阪神なんば線は今後、(大学などとの連携を強化することで)通学や通勤の定期客も増やしていきたい」と、久保田部長は語る。
近鉄は想定よりも2倍増 京阪は予想外の大苦戦
阪神なんば線の開通は、直通運転を始めた近鉄にも追い風となっている。4月の降車客数(定期外)は奈良駅で1割増、同じく大阪難波駅も2割増(ともに前年同月比)。「阪神圏からの顧客が増えているようです」と、近鉄・鉄道事業本部の槇山雅史部長は説明する。
同社は当初、2009年度に5億5000万円の新線による増収効果を見込んでいたが、現在の見通しは「その倍近くに到達する勢い」(槇山部長)。地元ホテルが兵庫県民を対象に超特価宿泊プランを用意するなど、地域挙げての観光客誘致活動が奏功したと見てよい。
近鉄は新線開通と同時に、高級感を全面に押し出した新型特急「22600系ACE」を投入した。大型喫煙ブースを設けて、煙が客室内に流れ込まないように徹底。また、トイレには床に大理石を敷き、温水洗浄便座も設置した。
車両投入と並行して、大和西大寺駅など主要駅の改装工事にも着手。折しも、奈良県では「平城遷都1300年祭」の開催を来年1月に控えている。多分に漏れず近鉄も定期客が減少しており、今後観光客を増やさなければならない。09年度後半にかけて、一気に巻き返す戦略だ。
一方で、想定外の苦戦を強いられているのが京阪の中之島線。輸送客数は当初の1日平均8万人見込みに対し、これまでの実績は同約3万人と低空飛行にあえいでいる。
中之島線は既存の天満橋駅から新設の中之島駅まで延伸した線で、開通により中之島から京都までが一本の線でつながることになった。
新駅には無垢の木やガラスが主な素材として使用され、「和」の演出が施されている。京阪はこれらの魅力についてのPRに力を注いできたが、「(顧客に)周知が届いていなかった」と、京阪・鉄道企画部の倉堀耕一部長はうなだれる。昨今の不況の影響で、中之島の開発が遅れぎみであることも足かせとなった。