頓挫する「貯蓄から投資へ」の誘導策、投資選択は個人の主体的判断、国は中立スタンスに徹すべし
政府が推し進めてきた「貯蓄から投資へ」のスローガンが、ここ数年の株価上昇と急落を経て、完全に頓挫している。日本銀行が6月17日に発表した2009年3月末の資金循環統計によると、家計の金融資産残高は1410兆円で、2年続けて減少。このうち株式の構成比は5・6%、投資信託も含めたリスク資産全体でも8・9%にすぎず、直近のピークだった07年3月末の17・2%から半減した。
政府が「貯蓄から投資へ」を初めて掲げたのは、小泉純一郎内閣時代の01年6月に発表した「骨太の方針」だった。03年からは、株式と株式投資信託の売却益や配当・分配金に対する税率を20%から10%に引き下げる証券優遇税制を実施(預貯金利子などは20%のまま)。貯蓄から投資への誘導を図ってきた。
ただ、スローガンが掲げられる前の01年3月末に10・1%だった家計金融資産におけるリスク資産の構成比は、その後17%台まで増えたものの、今年3月末には完全に元の水準に戻ってしまった。この間、スローガンや優遇税制に触発され、株や投信を購入した個人も少なくないはず。彼らの多くは、含み損を抱えたリスク資産の塩漬けや損切りを余儀なくされた可能性が高い。その証拠にトラブルも増えているのだ。日本証券業協会に投資家が損害賠償の斡旋を申し立てた件数は、08年度まで2年連続で過去最高を更新した。
日本人は株嫌い、のウソ
筆者は、株式などリスク資産への投資を否定するつもりはまったくない。個人が経済や金融に関する知識を積み自らの判断で主体的に投資することは、個人にも投資先企業にとっても、望ましいと思っている。だが、政府がスローガンを声高に掲げ、まるで国民をあおるかのように貯蓄から投資へ駆り立てる姿には、強い違和感を覚えてきた。そう感じるのは以下のような理由からだ。
第一に、このスローガンの背景にある基本的な考え方が誤解に基づいていることだ。日本国民のリスク資産の保有比率は米国に比べてかなり低く、金融資産を効率的に増やすためにも、もっとリスク資産に投資をしましょう、という考え方である。