アップル躍進が示す“計画的陳腐化”の終焉 「モデルチェンジ」の時代は終わった
テレビ、パソコン、携帯電話端末、そして自動車--先進国から新興国まで世界にマーケットが広がり、第二次産業の主役の座に君臨するこれらの製品が今、「100年に一度」の変化の時を迎えている。
といっても、経済危機を受けた低価格品への需要集中の話ではない。製造業のあり方が歴史的な転換点を迎えているのだ。にもかかわらず、赤字に苦しむ多くの日本のメーカーは、新潮流に対応できていない。
「新味のないアップル」
新潮流とは、「計画的陳腐化=モデルチェンジ」時代の終焉である。
象徴的な事例が、米アップルが6月8日に発表、日本では6月26日に発売した携帯電話端末の新製品「アイフォーン3GS」だ。
発表前は、年間1500万台売る大ヒットとなった前モデルにどれだけ新機能が加わるかが焦点だった。ウォッチャーの間でうわさされていたのは大胆なモデルチェンジ。曰(いわ)く「ビデオチャット用の二つ目のカメラが搭載される」「光沢素材ではなくマット素材に変わる」などだ。
実際、これまでのアップルは、短期間で大胆に外観を変身させてきた歴史がある。多くのウォッチャーがそう考えるのも無理はなかった。
が、予想は見事に裏切られた。新しいアイフォーンの見た目は旧機種とまったく同じ。処理スピードの向上、ビデオ撮影機能の追加などはあったものの、「新味なし」との報道も相次いだ。
重要な点は、「新味なし」、つまり短期間で大きなモデルチェンジをしないことが重要な価値になっていることだ。アップル以外の事業者が製造したアイフォーン用の付属品やアプリケーションは膨大。そのおかげで、見た目は同じでも日々、端末の価値は増していく。むやみに新味を加えないほうが得策なのである。
アイフォーンだけでなく、マックも筐体のデザインを変えていない。結果的に、アップルは金融危機後も着実に業績を拡大させている。2009年1~3月期の売り上げは前年同期比9%増の81・6億ドル、純利益は同15%増の12・1億ドル。消費が大幅に減退した米市場でも、同8%増の35億ドルと大きく伸びている。同社のフィル・シラー上級副社長は「消費者は一つひとつの商品を吟味して買うようになった。高性能で長く使えるものは結果的に得。そのためアップルを指名買いしている」と分析する。“確信犯”としてモデルの長寿命化を進めているのだ。
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