TPPには日本の法体系を破壊する「罠」がある

知的財産権を巡る合意の巨大インパクト

これについては、国内でも議論がある。

2015年11月27日に開かれた文化審議会の法制・基本問題小委員会(第6回)では、日本音楽著作権協会などが追加的損害賠償制度導入に積極的な姿勢を示す一方で、日本経済団体連合会が「追加的・懲罰的な損害賠償制度は我が国の不法行為体系になじまないので、現行の法体系との齟齬は避けてもらいたい」と主張。TPPの知的財産権と協議の透明化を考えるフォーラム(thinkTPPIT)とインターネットユーザー協会が「特に米国型訴訟文化の急速な導入は賠償金の高額化と濫訴を招き、個人や企業活動のk過度の自粛から文化・経済面での強みを減殺しかねない」と述べるなど、慎重な意見が相次いだ。

最高裁は平成9(1997)年7月11日に我が国の損害賠償制度の原則を現状回復とした上で、「被害者に対する制裁や、将来における同様の行為の禁止、すなわち一般予防を目的とするものではない」と判断した。

TPPと日本の不法行為体系とは大きな齟齬

さらに一般予防を目的とする賠償制度は、「我が国における不法行為に基づく損害賠償制度の基本原則ないし基本理念と相いれない」と宣言。懲罰的損害賠償を命じた外国判決の部分については、「我が国の公の秩序に反する」から無効としている。すなわち懲罰的損害賠償制度は日本の現行の不法行為法体系になじまないものと裁判所が断定したのだ。

実際に財務官僚時代、株式のインサイダー取引に懲罰的損害賠償制度の導入を検討した民主党の玉木雄一郎衆院議員は、その困難さを語っている。「我が国の損害賠償の基本ルールである民法第709条は、現に生じた損害を補てんするという原則から抜けられないとわかり、法制度を断念したことがある」。

このようにTPPと日本の不法行為体系とは大きな齟齬がある。ところがこの矛盾について、石原伸晃TPP担当相は「我が国の具体的な法制度設計は、我が国に委ねられている」(2月8日衆院予算委員会)と楽天的だ。なるほど、TPP協定第18章第5条は「締結国はこの章に反しないことを条件として、この章において要求される保護又は行使よりも広範な知的財産権の保護または行使を自国法令において規定することができるが、その義務は負わない」としている。

一見して、知的財産に関してTPPの規定を採用するかどうかは、締結国の自由のように思えるのだ。

だが日本の填補賠償制度はTPPが要求するよりも広範な保護や行使ではないため、石原大臣が述べるように「我が国に委ねられている」とはいえない。

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