【前田新造氏・講演】“人”が創る企業力−組織を活かすリーダーシップ−(前編)

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●マーケティングコストを集中し、市場占有力を持つ太く強いブランドへ

 2005年度から始まる新3カ年計画の策定に当たって大切なことは、明快な成長戦略を描き確実に実行すること、抜本的な構造改革を断行し利益体質の企業へ変革すること、この2点であると認識しておりましたので、2005年度のスタートに当たってはブランド・デザインを社内外にはっきりと示していかなければならないと思っておりました。そして全社員がともに目指す明確かつ分かりやすいビジョンを作らなければ絶対にこの改革は成功しないと思い、私が任期中に成し遂げたい3つの夢を打ち出しました。まず1つが「100%お客さま志向の会社に生まれ変わること」、そして「大切な経営資源であるブランドを磨き直すこと」、最後に「魅力ある人で組織を埋め尽くすこと」です。就任と同時に私自らが国内外の全事業所に出向き、改革シナリオを説明するとともに、社員との対話を通じて共有化したこの3つの夢を資生堂が目指すビジョンと置き換えて改革をスタートさせました。

 このようなフレームの下、成長性の拡大と収益性の向上を目指す国内のマーケティング改革、不採算事業の撤退、人事改革、コーポレートガバナンスの改革など、個々の改革プログラムを実行することでブランド価値の最大化を図り、グローバル企業と肩を並べて戦える企業に生まれ変わることを目指すこととしました。この3年で取り組む改革のシンボリック・アクションとして、お客さまと資生堂とをつなぐ大切な経営資源であるブランドを輝かせる本社からの改革、そしてお客さまとの接点から企業価値を高めるための店頭からの改革を同時に進めることによって改革のうねりを創出し、資生堂が変わったことを社内外に示し、この後続くさまざまな改革のエネルギーを生み出そうと考えました。その柱の一つであるブランド戦略の革新では、お客さまから圧倒的な支持が得られること、そして得意先にとっても資生堂にとっても経営に資するブランドをいくつ持てるかが最も重要であると考えました。小粒化して採算性が悪くなってしまったブランド群を太く強いブランドに生まれ変わらせ、負のスパイラルに終止符を打つことが急務でした。
 その先兵がメガブランドです。まずはブランドポートフォリオの整理・統合を徹底的に行ないました。5~6年前に一時期100以上あったブランドを徹底して見直し、まずは合計27の育成ブランドにまで絞り込みました。2008年度からはさらに21にまで絞り込み、コストとマンパワーを集中させています。その中でも核となるのが6つのメガブランドです。メガブランド戦略では化粧品市場において重要なカテゴリー、すなわちスキンケアやメーキャップ、あるいはヘアケアなど各カテゴリーに主力ブランドを導入し、そこにマーケティングコストを集中することでそれぞれが圧倒的な市場占有力を持つ太く強いブランドへと育成していくというものです。これらはおかげさまで目標通り圧倒的な知名度を獲得し、資生堂を代表するブランドとしてお客さまとの出会いを拡大しております。

 そして昨年からは中国、台湾を皮切りにアジア各国にも市場状況に合わせて販路を拡大しています。これらメガブランドを含む27の育成ブランドはこの3年で大きく売り上げを伸ばし、国内化粧品売り上げの8割以上を占めるまでになりました。もちろんマーケティング効率は格段に向上し、まさに良循環を生んできております。
▲2008年以降のメガブランド戦略ポートフォリオ。
MAQUiIIAGE、UNOといった6つのメガブランドを中心に一時期100以上あったブランドを21にまで絞り込み、圧倒的な市場占有力を持つ強いブランドへと育成していく。

中編に続く、全3回)
前田新造(まえだ・しんぞう)
1970年、慶応義塾大学文学部社会学科卒業。同年株式会社資生堂に入社。2003年取締役執行役員経営企画部長を経て2005年6月、代表取締役執行役員社長に就任。TSUBAKI、UNOをはじめとした6つの巨大ブランドを軸としたメガブランド戦略による変革を導く。
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