世界経済の火種再び? 米・中の経済不均衡--ケネス・ロゴフ ハーバード大学教授
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危機の再発防止に必要な不均衡の解消
しかし、こうした懸念を抱くには、それだけの理由がある。世界は金融危機から回復しつつあるように見えるが、自己満足に陥るのは人間の性(さが)で、米中の通商関係と金融関係をめぐる政治の根は深い。米国の場合“数兆”もの資金を使って金融機関を救済したにもかかわらず、表面的な改革しかできないのなら、米国の金融部門は金融危機からいったいどんな教訓を学んだのかと、人々は身震いする思いにとらわれるだろう。
一方で、中国の場合、再び内陸部の貧しい消費者を犠牲にして、沿海地域の貿易企業に利益をもたらすような為替政策に傾斜しつつあるように見える。
もう一つ懸念すべきことは、世界経済の回復に勢いがないことだ。米中両国の指導者は、巨額の財政出動だけでなく、信用市場に介入することで危機に対処してきた。しかし、異例ともいえる巨額の財政支出は納税者の犠牲のうえで行われており、いつまでも続けることはできない。
世界銀行のゼーリック総裁は、こうした一時的な巨額の財政刺激には“大量の砂糖”が含まれており、大規模な改革を行わないと最終的に負担が国民に転嫁されることになると警告を発している。金融機関の救済や巨額の財政拡張政策の結末は、間違いなく金利上昇と増税、そしてインフレを招くことになるだろう。
時計を逆戻りさせることは不可能かもしれない。たとえば、過食を繰り返してきた米国の消費者は10年以上にわたって世界経済の成長を支えてきたが、やっとダイエットに取り組み始めた。金融引き締めに加え、住宅価格の下落と失業率の上昇で、米国の消費者の支出の減少が続きそうだ。
米国の個人貯蓄率が上昇することは悪いことではない。それは、金融危機が再発するリスクを低下させることになるだろう。米国の消費の減少を埋め合わせるのは、中国と他のアジア諸国の消費者である。アジア経済は合計すると米国経済を上回る規模になっている。