「黒い顔」が電車の定番デザインになったワケ 30年以上続く「ブラックマスク」の歴史

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大阪市営地下鉄の10系電車。写真はリニューアル後の姿で、大型ガラスの内側のみならず、前面の上半分全体が黒くされている(スポッティー/PIXTA)

この「ブラックマスク」の流行は、前面への大型ガラスの採用と不可分の関係にある。

1969年に登場した大阪市営地下鉄堺筋線用の60系電車は、運転台窓より大きな、屋根近くまであるガラスを窓の前にはめ込み、そのガラスの内側に標識灯や行先表示器などを取り付け、ガラス越しとする画期的なデザインを採用。その斬新さで話題となった。この電車では、国鉄201系に先んじて開口部以外のガラスの内側が黒となっていた。

デビュー当時の201系においてはガラスの大きさは窓の大きさとほぼ等しかったが、前面に黒を入れるという発想は、これと同じだ。新しいデザインを求めて、各社の電車を参考にすることは当然あり、大阪市営地下鉄60系に着目したこともあっただろうと思わせるつながりである。

大阪市交通局は御堂筋線用の新型車両10系の量産車を、国鉄201系と同時期に送り出している。これの前面デザインも60系を受け継いだもので、大型ガラスと黒が特徴となっていた。

その後、黒を採り入れた車両デザインが輩出するのだが、同時に大型ガラスと融合させて採用した例が多く、むしろ201系のように、単純に黒くしただけという車両は少ないと思われる。流行の発信源は、実は一つだけではないという話である。

「元祖」は引退が迫る

国鉄201系は製造費用の高さから製造は1018両に留まり、JR東日本とJR西日本へと引き継がれた。後継車の大量生産により、「ブラックマスク」も珍しいものではなくなったが、中央線のオレンジ色の電車として、長年、親しまれてきた。

しかし、製造から25年以上が経過し、さらに省エネ性能にすぐれた電車が製造できるようになると、置き換えが始まった。中央線快速からは2010年、最後の京葉線からは2011年に姿を消し、JR東日本在籍車は全廃されている。

現在はJR西日本にのみ在籍しており、大阪環状線、大和路線などを走っている。このうち、大阪環状線用の車両は中央線快速と同じオレンジ色で、東京から訪れる人には懐かしい思いを抱かせているようだ。

しかし2016年度からは大阪環状線に新形式323系の投入が始まる予定で、阪和線への新型車両投入(およびそれに伴う車両転用)とも相まって、老朽化が進んでいる201系は数年のうちに引退することが予想される。流行の先がけ、ファッションのスタンダードとなったスタイルを眺めるのなら、今のうちである。

土屋 武之 鉄道ジャーナリスト

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つちや たけゆき / Takeyuki Tsuchiya

1965年生まれ。『鉄道ジャーナル』のルポを毎号担当。震災被害を受けた鉄道の取材も精力的に行う。著書に『鉄道の未来予想図』『きっぷのルール ハンドブック』など。

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