「黒い顔」が電車の定番デザインになったワケ 30年以上続く「ブラックマスク」の歴史
これは、前世代の主力車であった103系からのイメージチェンジを図ろうという国鉄のアイデアだった。衝突事故対策として運転台の位置を従来より高くしたことにより、運転台窓も上へ移り小さくなったのだが、その分、デザインとしてバランスが悪くなるとも考えられた。
そこで、「前面に大きな窓があるように思える」方法として、周囲を黒くしたのだった。
よく見ると、201系の前面には窓が3つ、前照灯を囲んで左右非対称に配置されている。運転台側の横長、反対側の縦長、運転台上の行先表示器の3つだ。これも103系の平凡なデザインからの変化を期待したゆえ。そして、それらをすべて覆うかのように周囲を黒くしたのである。
かつて蒸気機関車や貨車などでは、「黒」は当たり前に使われていた。汚れが目立たないことが主な理由である。しかし戦後になって、電車やディーゼルカーを中心に華やかな色が外部塗色に使われるようになると、一転、地味で暗いとして、鉄道車両の色としては敬遠されるようになる。特に、時代遅れと思われていた蒸気機関車の色というイメージが強かったようだ。
ただ、明るい色の中でアクセントとして使うと見た目が引き締まり、強い印象を与える。それゆえ、誰もが見る前面に使うと効果が大きい。ただのオレンジ一色より人の目を引きやすかったのだ。
なお、201系の黒い部分は塗装ではなく金属板への特殊な加工によるもの。201系は量産され中央線の快速の他、京阪神間などへも新製配置され、関西ではスカイブルーに「ブラックマスク」と新しい組み合わせとなっている。
最新の山手線にも引き継がれる
この「ブラックマスク」は好評を得たため、201系に続いて量産された203系(常磐緩行線・千代田線直通用)、205系(山手線用)にもスタイルを変えて引き継がれた。
それどころか国鉄がJR各社となっても、その傾向は止まらず、もはや「通勤電車は"黒い顔"が当たり前」となってしまっている。2015年完成のE235系においてすら、201系以来36年の時の流れを超えて、運転台周りは黒なのだ。
日ごろ、利用している通勤電車を思い浮かべてほしい。阪急電鉄など、流行を追わないデザインポリシーを持っている会社以外、必ずと言って過言ではないほど前面のどこかが黒い。
新幹線や特急型電車などでは、通勤型電車ほどスタンダードではないが黒、または類似色(濃灰色など)を前面に配している例が少なからずある。形状が通勤型と違って複雑なので、黒くしなくても注目されやすいということもあるだろう。それでも新幹線のN700系やE5系などの運転台周りを狭い面積ながらも黒くしており、"表情"を引き締めている。
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