英国の名門新聞が、ついにネットに殺された 「インディペンデント」が電子版オンリーに

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ESIメディアの所有者エフゲニー・レベデフ氏(先のアレクサンドル氏の息子)によると、電子版はすでに「黒字になっている」。電子版オンリー策の成功に、期待がかかる。

ちなみに、全国紙の中で、過去記事も含めてすべてが無料に閲読できるようにしてあるのは、インディーとガーディアンのみだ。インディーは無料で読める新興メディア、ハフィントン・ポストやバズフィードといった新しいライバルと張り合う状況にいる。

ESIメディアは無料夕刊紙「ロンドン・イブニング・スタンダード」、テレビ局「ロンドン・ライブ」も傘下に置く。電子版の国際化に向けて、新たに25人を雇用予定だという。

言論空間への影響に懸念の声

新聞界の悪しき慣習を検証した委員会が出した報告書を「ごみ」と表現した1面(2012年11月)、インディペンデントより

インディーの例は、他紙にとっても他人事ではない。紙版の廃止という問題は、「ありうるか」ではなく、「いつか」という次元に入ったともいえるだろう。

ガーディアンのジェイン・マーティンソン記者は、言論空間の多様性に変化があることを懸念する。(12日付、「インディペンデント:インターネットに殺された新聞」)。

英国のメディア市場は現在、保守系メディアが多勢を占める。インディーは電子版としては継続するわけだが、紙版が消えることで「言論の多様性についてのさまざまな議論が出てきそうだ」。多種な意見がオンライン上にはあるものの、「政治不安が高まる今、かつては急進的で反権力の姿勢を打ち出した新聞が紙では消える。このことによる喪失感は、大きい」。

英国では、昨年5月から、保守党単独政権が続いている。野党・労働党は政治家らしくない政治家ジェレミー・コービン氏の就任(昨年秋)以来分裂状態で、すぐに政権を担える状態にはない。次の総選挙が予定されている2020年時点でも、労働党が立ち直っているかどうかは不明だ。

左派勢力が弱くなっていくなかで、インディーも弱体化していった。そして、ついに紙版廃止に追い込まれた。このことは、今後の政治の方向性にも影響を与えることになるだろう。

小林 恭子 在英ジャーナリスト

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こばやし・ぎんこ / Ginko Kobayashi

成城大学文芸学部芸術学科(映画専攻)を卒業後、アメリカの投資銀行ファースト・ボストン(現クレディ・スイス)勤務を経て、読売新聞の英字日刊紙デイリー・ヨミウリ紙(現ジャパン・ニューズ紙)の記者となる。2002年、渡英。英国のメディアをジャーナリズムの観点からウォッチングするブログ「英国メディア・ウオッチ」を運営しながら、業界紙、雑誌などにメディア記事を執筆。著書に『英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱』。

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