傍流から異例の抜擢、伊勢丹新社長の重責

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傍流から異例の抜擢、伊勢丹新社長の重責

抜擢人事で伊勢丹は復活できるのか。6月1日、百貨店大手の伊勢丹社長に、大西洋氏(53)が就任した。三越伊勢丹ホールディングス会長兼CEOで伊勢丹社長も兼任していた武藤信一氏(63)は今後、グループ全体の経営に専念する。

通例の3月人事では無風だった伊勢丹で、なぜこの時期に社長交代なのか。内規では伊勢丹社長の在任期間は最長6年。2001年社長に就任した武藤氏も「本来なら後継者を決める指名委員会の選考を経て、07年にバトンタッチするはずだった」と言う。だが、その年伊勢丹は三越と経営統合を発表。昨年は正式統合、今年も経営破綻した丸井今井の支援企業に決定するなど重要な決断が相次いだ、というのが会社側の見解だ。

大西氏の社長就任に業界では驚きの声が上がっている。大西氏は伊勢丹入社後、紳士服分野での経験が長く、03年にオープンした伊勢丹本店「メンズ館」を成功に導いた立役者の一人だ。婦人服が「主役中の主役」である伊勢丹で、紳士服畑からの新社長誕生は異例。下馬評では婦人服畑を歩み、現営業本部長である二橋千裕氏を本命と見る向きも多かった。大西氏は昨年春から三越の取締役に転じており、伊勢丹流の商品政策を三越に移植する役割を担っていたはずだった。

「婦人服の専門家が婦人服を改革するのは難易度が高く、違う視点を持っている人を選んだ」(武藤会長)。この言葉は三越伊勢丹が置かれた苦しい立場を物語る。今10年3月期の営業利益は前期比約9割減の見通し。勝ち組・伊勢丹の高い収益力を担保に負け組・三越を改革するはずが、肝心の伊勢丹の収益力が低下。原因は主力の婦人服の不振にある。当初今秋から開始予定だった本店婦人服売り場のリモデルも、「10年秋を視野に入れ実施する」(同社幹部)と延期、抜本策を打ち出せていない。

しかも本店メンズ館も“神通力”を失いつつある。伊勢丹の紳士服部門は消費不況で売り上げ2ケタ減が続く。メンズ館のエッセンスを導入した伊勢丹の地方店や系列店も、地元のニーズと必ずしも合致せず低迷している。

「再び勝ち組の伊勢丹といわれるようにしたい」(大西氏)。傍流出身の社長が主流を改革できるか。新社長の双肩にかかる負担は大きい。

(福井 純 撮影:今井康一 =週刊東洋経済)

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