世界中に蔓延するインフレへの処方箋−−ケネス・ロゴフ ハーバード大学教授

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もしも中東やアジアの多くの国が、自国の為替相場をドルに連動させていなかったら、米国発の世界的インフレは阻止できるかもしれない。しかし、ロシアやアルゼンチンといった為替相場をドルに連動させていない国でも、為替の変動を円滑にするため市場に介入している。

その結果、FRBが利下げを行うと、世界の“ドル・ブロック”によって各国の中央銀行には米国の利下げに追随する圧力がかかる。なぜなら利下げをしなければ、投資家は高い利回りを求めてそれらの国々に投資先を求めるからである。するとその国々の為替相場は、さらに上昇することになる。このようにして米国の金融緩和は、世界経済のおそらく60%近くの地域にインフレ影響を及ぼすことになるのである。

この状況下で欧州中央銀行は、今のところ冷静な対応をしている。中東、そしてアジア諸国の大半も米国より景気が好調で、新興国の多くはインフレ状態にある。こうした国々では、差し迫って積極的な景気刺激策を講じる必要はない。

だが今後は、史上最高値を付けたユーロ相場のさらなる上昇を恐れて、欧州中央銀行はこれまでの利上げ政策を変更する可能性が出てくる。米国の景気後退が世界中に広がることになれば、金融政策を転換して、利下げをする必要が生じてくるからである。

この場合、次に起こりうる事態は何か。もし米国経済が緩やかな景気後退から深刻な景気悪化の状態に転じれば、今度は世界中にデフレが蔓延し、現在直面するインフレ圧力は相殺されるだろう。また国際商品市況も大きく値崩れし、多くの製品とサービス価格の上昇がストップする。そして失業率が上昇し、生産能力が過剰な状態に陥るはずだ。

もちろん、米国の景気後退が加速するとFRBはさらなる利下げを迫られ、問題はさらに深刻化する。逆に米国の景気後退が緩やかなものにとどまり、世界経済も堅固であれば、インフレ圧力はさらに高まる。その場合、インフレは世界各国で、1970年代までとはいわなくとも、80年代の水準までは上昇するだろう。

これまで多くの投資家は、「短期的な景気後退を受け入れるより高いインフレリスクを取るほうが賢明」と考えてきた。しかし、そこではインフレのコストやその根絶の困難さが忘れられている。投資家自身も中央銀行がジンバブエで会議を開催するように、現状の正確な理解に努めるべきである。

ケネス・ロゴフ
1953年生まれ。80年マサチューセッツ工科大学で経済学博士号を取得。99年よりハーバード大学経済学部教授。国際金融分野の権威。2001~03年までIMFの経済担当顧問兼調査局長を務めた。チェスの天才としても名を馳せる。

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