「フリーゲージ車」は新幹線以外にも使える! トラブル発生の原因究明し、開発継続を

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北陸新幹線の敦賀以西や九州新幹線西九州ルート以外にも、フリーゲージトレインが活用できる路線は全国に数多くある(写真:konide/PIXTA)

では、このような状況を踏まえて「日本版フリーゲージトレイン」の開発は中止すべきなのだろうか?

私はそうは思わない。まず、今回のトラブルは、その深刻度として「フリーゲージ技術の根幹に関わるメジャーな欠陥」ではないと評価できるからだ。実用化にあたっては最高レベルの安全性を確保するために、慎重な検証と対策が求められるにしても、開発を断念するほどの問題ではないと考えられる。

そして、仮に「西九州ルート」や「敦賀以西」については「リレー方式」となるのであれば、将来的に「フリーゲージ車」が完成した時点で直通運転に切り替えればいい。また、この2路線が仮に「フル規格」となった場合でも、全国には「軌間変更による直通運転」で利便性を高めることのできる箇所が数多くある。

例えば新幹線の関連では…

●山陽新幹線の岡山から本四備讃線を経由して四国の電化区間への直通
●山陽新幹線から、陰陽連絡、日豊本線への直通
●日本海縦貫線における、北陸新幹線の上越妙高から新潟、あるいは上越新幹線の新潟から秋田への直通
●北海道新幹線の札幌延伸後の、函館から新千歳空港および旭川への直通

といった国土軸に関わる直通運転には「フリーゲージ車」の活用が望ましい。

また、仮に北海道新幹線の札幌延伸が成功し、更に上記の「上越から新潟~秋田」などの「フリーゲージ車」による直通運転が拡大した場合には、東北・上越・北陸新幹線の大宮以南、とりわけ東京駅の折り返し容量が足りなくなる。

その場合は、

「東北・上越・北陸新幹線の非速達型列車は大宮で軌間変換してから東北・山手貨物線へ下ろして池袋・新宿へ」

という運用も「フリーゲージ車」であれば可能になる。さらに言えば、将来、地域によっては人口減が顕著になる中で、新幹線と並行在来線の双方を抱えるのが難しい箇所も出てくるだろう。また、リニア中央新幹線開通後の東海道新幹線については、抜本的な耐震工事やスラブ軌道化などを施した後は、現在より遥かに余裕のあるダイヤが組めるようになる。

フリーゲージ活用の場は広い

そうしたファクターを考えると、標準軌新幹線と狭軌在来線をフレキシブルに直通できる「フリーゲージ車」が、新幹線というインフラを活かす切り札になる、そんな時代がやってくるのは間違いない。

さらに私鉄や地下鉄に対象を拡大していけば、中部や関西の複数の軌間を持つ私鉄ネットワークにおける直通運転や、蒲蒲線(狭軌の東急多摩川線から標準軌の京急空港線への直通)構想など、有効活用の可能性は数多くある。

このように中長期展望に立つのであれば、この「フリーゲージ構想」には積極的に推進すべき理由はいくらでもある。これまで培ったノウハウを生かして開発の継続を強く望みたい。
 

冷泉 彰彦 作家

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れいぜい あきひこ

1959年生まれ。東京大学文学部卒。米国在住。『アメリカは本当に「貧困大国」なのか』など著書多数。近著に『「上から目線」の時代』(講談社現代新書)。

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