"預金者を罰する"マイナス金利で起こること 欧州では金利体系が混乱、年金運用に打撃

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欧州では、ECBが2014年6月11日からマイナス金利政策を実施している。それと相前後して、デンマーク国立銀行、スイス国立銀行、リクスバンク(スウェーデン)は、自国通貨の為替レート上昇を避けるため、ECBよりもさらに低いマイナス金利政策を採用している。

欧州のマイナス金利導入の状況を見て、海外の著名な経済学者の間からは、「金利はゼロ%より下げられないという『ゼロ金利制約』は誤解だった。マイナス金利政策は金融政策の新しい可能性を広げる画期的な手段だ」といった見解が聞かれる。しかし、欧州の実情を詳しく見てみると、そういった解釈は早計であるように思われる。

欧州では銀行の金利や手数料がいびつに

欧州では銀行間金利、国債の金利、企業や機関投資家の大口預金金利がマイナスとなっている。一方で、金融機関の最大の資金調達源である個人預金のほとんどはマイナスになっていない。銀行経営者は預金者の「反乱」を恐れるからだ。そうした中で、中銀が付利金利のマイナス幅を大きくしていけば、いつかは銀行がそれに耐えられなくなり、個人の預金金利もマイナスにしていくだろう。しかし、そうなると、現金の大規模な引き出しなど、数々の副作用が出てくる恐れがあるため、欧州ではどこの中銀もそこまでは踏み切っていない。

ただ、個人預金をマイナスにしていないため、金融機関は逆ザヤを避けようとして、住宅ローン金利の大半もマイナス金利にせず、プラスで維持している。しかし、それでも全体としては、マイナス金利政策によって金融機関の収益は圧迫されてしまっているため、ATMなどの手数料の引き上げや一部では住宅ローン金利を逆に引き上げる動きも見られる。

以上からわかるように、「超過準備のマイナス金利を起点に、法人向け市場から個人向け市場までイールドカーブが綺麗に形成されている」という金利体系には今の欧州は全くなっておらず、歪んだ、いびつな状態になっているのである。

まとめると、欧州の中央銀行がここ数年行ってきたマイナス金利政策は、個人の預金金利がマイナスにならない範囲にとどめながら、金融機関の収益や保険会社・年金などの利回りを圧迫することで、為替レートの上昇を抑える政策として実施されてきたと見なすことができる。

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