悲惨なバス事故を繰り返さないための教訓 道路交通における安全をどう確保するか
もっとも法令を遵守しているバス会社も課題は山積している。規制緩和でバス会社は倍増した。その結果、運行を依頼する旅行会社の力が強くなり、規定を無視した低価格でのツアー発注・受注が横行することになった。鉄道やタクシーなどを見ればわかるように、交通機関の運賃には多くの場合、規定がある。観光バスだけここまで自由にできること自体が異常と言うべきだろう。
旅行会社とバス会社の上下関係
関越自動車道での事故はこの低価格競争が原因であり、その後都市間高速バスについてはバス事業の許可を受けた事業者でなければ運行が出来ないという、新高速乗合バス制度が発足した。しかしスキーバスなどそれ以外のツアーバスはこの制度の対象外であり、旅行会社とバス会社という上下関係が続いている。
その結果、法令を遵守しているバス会社や運転手も、休息時間や非番の時間を削ったり、回送時に高速道路の利用を制限したりという業務を強いられている。これではこの業界を目指す若い人が少なくなるのは当然で、運転手の高齢化も目立ちつつあり、それによる事故も懸念される。
今回、筆者が話を伺った鉄道会社系高速バスの運転手は、1日の担当は片道約150kmを最大1.5往復、1週間のうち4日で5往復を限度としており、残り3日は休みとなる。大勢の命を預かっての長距離運転は肉体的にも精神的にも重労働であり、仕事量を考えればこの程度の業務が上限であると思われる。
今回の事故では、当初休憩のために入る予定だったサービスエリアが混雑のために入れず、本来降りる予定のインターチェンジの先にあるサービスエリアに入った結果、高速道路料金を抑えるために、本来は高速道路で通過する碓氷峠を碓氷バイパスで通過したという主張も見られる。会社からの指示か、ドライバーの判断かは不明だが、背景に厳しい経営状況があることは想像できる。
乗用車に導入例が増えてきている、いわゆる自動ブレーキをバスにも搭載するなど、車両側の安全強化も必要だ。しかし現在のバス会社の収益では、安全性の高い新型バスを積極的に購入できる会社は限られてしまう。現状のままでは、車両の安全性向上はほとんど期待できないことになる。
最近急激に増加している外国人旅行者を取り込めば、少ない客を取り合う現状は改善できると思う人もいるだろう。しかしインバウンド需要の多くは海外の旅行会社が手配しており、既存のバス会社には依頼はほとんど回ってこないという。これらの仕事を受けるバス会社がさらに杜撰であるという噂もある。すでに繁華街での路上駐車が問題となっているが、今後、巻き添え事故などが発生しない保証はない。
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