長期病欠市議の報酬問題は、なぜ起きたのか 「個人の不祥事」と切り捨てれば本質を見誤る

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ただ、この問題を木村議員1人だけを悪者にした不祥事として切り捨ててしまうのは早計だ。木村議員は「NHKからは報道前日に『先生自身の個人攻撃になるのが心苦しいが、制度に問題があり、問題提起をしたいので匿名ではなく実名で報道します』と伝えられました」と明かす。

誰にでも起こりうる、病気というリスクへの対策は?

病気は誰にでも起こりうる不幸なリスクであり、たとえ「選挙に落ちたらただの人」である政治家といえども同じ話だ。病欠の一定期間は減額しても報酬を払い、その限度期間が過ぎたら辞職とするなどのちゃんとした決まりがあったほうが、規律も保てる。一般企業や役所でそういう規定が設けられているところは多い。

NHKのスクープを受けた複数メディアの報道で、北九州市議会自民党市議団の片山尹(おさむ)団長が、議員報酬の減額規定を検討するべきだという趣旨の発言をしたと伝えられているが、それまで、この件は一般市民にはほとんど伝わっておらず、関係者の中から条例の具体的な整備を進める動きはなかった。いわば「臭い物にふた」がされている状況だったというのが最大の問題だ。

木村議員が長らく病欠していたことは、片山団長はもちろん市議会議員の全員が知っていたはずだ。北九州市の市議会事務局は議会招集のたびに木村議員の欠席届を受け取っていた。ならば、地方自治の執行機関である北橋健治市長が、この問題を把握していなかったワケがない。

1月20日に北九州市役所で開かれた定例記者会見は、北九州市のホームページを経由してYouTubeで配信されており、記者もその内容を確認した(木村議員の件についてのやり取りは動画の8分40秒ごろから約6分間)。北橋市長は木村議員の問題について会見に出席した記者から出た3つの質問に「議会の対応を見守りたい」と繰り返し、自身の方針についての明言は避けた。市長には条例の提出権があるにもかかわらず、責任とリーダーシップに欠ける発言に聞こえる。

一般企業においても、従業員の個人的な問題が具体的に起こってから、社内でさまざまな制度や規定などが生まれることが多い。そして北九州市以外の政令指定都市やそのほかの自治体でも、こうした規定が整備されていないのであれば、「対岸の火事」と傍観するのではなく「他山の石」として具体的に動かないと、同じような問題はまた起こりうる。

武政 秀明
たけまさ ひであき / Hideaki Takemasa

1998年関西大学総合情報学部卒。国産大手自動車系ディーラーのセールスマン、新聞記者を経て、2005年東洋経済新報社に入社。2010年4月から東洋経済オンライン編集部。東洋経済オンライン副編集長を経て、2018年12月から東洋経済オンライン編集長。2020年5月、過去最高となる月間3億0457万PVを記録。2020年10月から2023年3月まで東洋経済オンライン編集部長。趣味はランニング。フルマラソンのベストタイムは2時間49分11秒(2012年勝田全国マラソン)。

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