異常気象が世界史に与える影響は侮れない エルニーニョ現象が変えたマクロ経済の常識

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ただし、こうした影響は発展途上国ほど深刻ではない。途上国ではエルニーニョ現象によって干ばつが発生し、深刻な収穫減につながる可能性が高いからだ。 実際、1997年から98年にかけて途上国で発生したものは「世紀のエルニーニョ」と呼ばれ、多くの国に甚大な被害をもたらした。

エルニーニョ現象の経済的影響を予測するのは非常に困難だ。しかしジンバブエや南アフリカといった国々が干ばつや食糧危機に直面したり、インドネシアが森林火災に苦しんだりする中、米国でも最近、中西部では大きな洪水が発生している。16年を振り返る頃に、多くの主要国でも経済状況の変動要因としてエルニーニョ現象が挙げられる可能性は大いにある。

同様に内乱や内戦についても、天候が大きく影響を及ぼしてきた歴史がある。ある経済学者の調べでは、中世の欧州で数十万人が命を落とした魔女狩りの裏には天候に起因する食糧不足があるという。現在のシリア内戦においても、深刻な農作物不作や干ばつが背景にあると見る研究者もいる。

米利上げへの影響も

また米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げ時期の判断材料としている雇用統計も、天候要因で悪影響を受ける可能性がある。雇用統計はもちろん季節調整済みだが、大規模な異常気象の可能性は織り込まれていない。

過去の統計から考えても、現在多発するエルニーニョ現象は、グローバル経済に影響を与える可能性が高い。欧米の経済回復は後押しされるかもしれないが、新興国経済には下方圧力がかる。今後世界的により温暖化が進めば、経済的にはさらなる影響が及ぶだろう。今起きていることは、今後起こることの序章にすぎないのかもしれない。

週刊東洋経済1月30日号

ケネス・ロゴフ ハーバード大学教授

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Kenneth Rogoff

1953年生まれ。1980年マサチューセッツ工科大学で経済学博士号を取得。1999年よりハーバード大学経済学部教授。国際金融分野の権威。2001〜03年にIMFのチーフエコノミストも務めた。チェスの天才としても名を馳せる。

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