ブラジルに賭けた川重、「221億円損」の裏目 原油安が直撃、掘削の継続に勝算はあるか

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しかし、翌年にペトロブラスや建設会社などが絡む大規模な賄賂・汚職スキャンダルが発覚。この余波でエンセアーダへのドリルシップ建造工事の入金が停止し、資金繰りが悪化。川崎重工業への支払いも止まった。

三菱重工業やIHIも同様に現地造船会社に経営参画していたが、前2015年3月期にブラジル造船事業の関連損失としてそれぞれ80億円強、290億円を計上。三菱重工業は出資も引き揚げる方針だ。一方、川崎重工業はエンセアーダが現地合弁先からつなぎ融資を受けていたこともあり、事業の継続性に問題はないとしてこれまで損失処理をしていなかった。

担当の代表取締役が降格へ

その後も経営環境が改善しなかったことから、川崎重工業もついに損失処理の判断に至った。実はブラジル以外でも、ノルウェー企業から受注した海洋掘削船で仕様変更に伴う工期延期でコストが膨らみ、今期の造船事業は赤字の見通し。こうした責任を明確にする形で、今回の損失計上とともに造船事業を担当する村上彰男代表取締役常務を代表権のない取締役に降格する人事を発表した。

だが、エンセアーダに対する技術指導や研修生の受け入れなど、合弁契約に基づく協力関係は継続する。国内造船大手は韓国、中国勢が台頭してきたコンテナ船やタンカーなどから、付加価値の高い分野へシフトする動きが鮮明になっている。川崎重工業としては、今後も「新規参入した海洋掘削関連で生き残りを図る」と強気の構えだ。

こうした対応について、「ブラジルから撤退せずに造船事業のトップを更迭するのは、ちぐはぐな印象」(造船アナリスト)との声も聞かれる。

 1月20日のニューヨーク原油先物市場では、1バレル=26ドル台前半と約12年8カ月ぶりの安値を付け、海洋掘削事業を取り巻く環境はきわめて厳しい。競合が縮小・撤退判断に傾く中で橋頭堡を築くことができれば、残存者利益を享受することができる。しかし、強烈な逆風に耐えてどこまで事業を継続できるか、正念場が続くことになる。


 

山本 直樹 東洋経済 記者

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やまもと なおき / Naoki Yamamoto

『オール投資』、『会社四季報』などを経て、現在は『週刊東洋経済』編集部。

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