シャープ、堺・大型液晶パネル新工場の前倒し稼働の勝算は?
シャープは、大阪・堺市の大型液晶パネル新工場を今年10月から稼働させる見通しだ。8日、都内で開催した経営戦略説明会で会社側が発表した。これまで、対外的には2010年春の稼働を謳っていたが、それを前倒しで稼働する。1~3月の大幅減産で在庫調整が進んだうえ、中国を中心としたパネル需要が急増しているため、公表時期より稼働を半年早めるという。同工場の合弁を予定するソニーとは正式調印に至っていないが、まずは単独で堺工場の稼働に踏み切る。
同日、都内で会見した片山幹雄社長は、「びっくりするくらい急に市場が動き始めた。パネルの注文が急増し、1週間くらい前から亀山第二工場をフル操業させている。(年末商戦に向けて需要が盛り上がる)秋には堺を動かさないとまったく足りなくなる」と語り、出席した報道陣を驚かせた。
昨年秋まで工場フル操業を続けたシャープは、過剰なパネル在庫を抱え、今年1月から大幅な減産を余儀なくされたという経緯がある。1月に亀山第一工場の操業を停止、唯一のパネル生産拠点となった同第二工場も操業度を5割にまで下げ、かつてない大規模減産でパネルや液晶テレビの在庫圧縮を最優先した。こうして在庫調整が進んだところに、冷え込んだパネル需要の揺り戻しが起き、亀山第二工場のフル操業に至ったという。中でも液晶テレビの普及が沿岸都市部から内陸部へと広まっている中国テレビメーカーからの引き合いが旺盛で、従来のような自社の液晶テレビ用ではなく、外販が需要の中心となっている。
堺の新工場は、世界初となる畳5枚分相当の大型ガラス基板を使った最新鋭の大型液晶パネル専用工場。07年夏に概要を発表した際の総投資予定額は3800億円。計画するすべての生産投資が完了すると、同工場は大型の40インチ換算で年間1500万台分(ガラス投入枚数は月7.2万枚)もの生産能力を持つことになり、アジア勢から大型液晶パネルの主導権を奪い返す戦略工場、との触れ込みだった。しかし、昨年9月のリーマン・ショック以降、経済環境が急激に悪化。パネルの大口需要先として堺工場の合弁化を発表したソニーとの正式調印も延期され、同工場の先行きが不安視されていた。
片山社長は、会見の席上、「1−3月は大幅な生産調整を強いられたが、今後は旺盛な需要が期待できる。大型サイズで高いコスト競争力を持つ堺新工場を一日も早く動かすことが、当社の大きな武器になる」と強気の発言に終始した。
もっとも、不安材料が消えたわけでもない。亀山第二工場がフル操業になったといっても、亀山第一工場の操業を止めているため、足下のパネル生産量は前年同期のおよそ8掛けの水準だ。また、今回のパネル需要回復が本物かどうかも見極める必要がある。テレビメーカーは昨年後半から大規模な在庫調整を行ってきたため、そうした在庫調整の一時的な反動という見方もできる。特に、今回の需要回復は中国メーカーが牽引役となっているだけに、中国市場の動向が今後の工場稼働率を左右するだろう。
写真:建設中の工場(08年10月)