三菱東京UFJ、フィリピン950億円出資の勝算 8割のプレミアムは高くないのか?

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国際派の平野信行頭取は活発に海外金融機関に投資(撮影:今井康一)

三菱東京UFJ銀の利益に与える影響も目先は軽微だ。セキュリティバンクの2014年の当期純利益は71億フィリピンペソ。出資比率20%に応じた利益押し上げ効果は約14億フィリピンペソにとどまる。

一方、出資額369億フィリピンペソから、14年末株主資本468億フィリピンペソ×20%を引いて単純に試算したのれんは約275億フィリピンペソ。20年償却とすると毎期約14億フィリピンペソののれん償却が必要となる。つまり、のれん償却の費用で利益貢献の大半が相殺されてしまう。セキュリティバンクが2014年より増益にならなければ、利益貢献はほぼないということになる。

積極投資で成長狙い、傘下へ取り込みも

「出資額は高すぎるのではないか」との指摘に対して、三菱東京UFJ銀行国際企画部の西川洋一郎次長は「今回の出資によりセキュリティバンクは成長の加速が見込める。そうした事業計画に基づく将来キャッシュフローで算定した」と、妥当であることを強調する。

セキュリティバンクは過去5年で支店数を262店へ倍増させたが、これを2020年には500~600店まで拡張する計画だ。貸出も、過去5年で約3倍増え46億ドル(15年9月末)となったが、これを20年には208億ドルへさらに4倍以上にする。これらの結果、純利益は14年の1.5億ドルから20年4.7億ドルへ3倍増となることを見込む。

また、出資額には「戦略的な価値を見込んでいる部分もある」(西川次長)。セキュリティバンクはフィリピンの大手行では珍しい、どこの地場財閥グループにも属さない独立系の銀行。三菱東京UFJ銀との連携を強化しても、フィリピン国内で全方位外交を貫くことができ、フィリピン経済全体の成長を十分取り込めると判断している。

出資比率のさらなる引き上げは「現時点では特に予定していない」(同)とするものの、将来的に三菱東京UFJ銀の子会社にできればメリットは大きい。前出のメガバンク首脳も「将来的にマジョリティ(過半出資)が許されるようになることを見越しての出資だろう。戦略的にも価値のある買収ではないか」と評価する。

多少の高値に目をつぶっても、セキュリティバンクが期待どおりに成長してくれれば、今回の出資は成功といえる。が、はたしてそのもくろみどおりにいくか。フィリピンは今年5月に大統領選を控える。結果によっては、これまでアキノ大統領がとってきた外国資本導入に積極的な路線が転換する懸念もある。まずは大統領選という、新興国経済においてとりわけ重要な政治リスクを乗り越えることが、今回の出資の成否を占う第一歩となる。 

福田 淳 東洋経済 記者

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ふくだ じゅん / Jun Fukuda

『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部などを経て編集局記者。

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