日帰り、深夜チェックイン…新たなプランが続々、高級旅館も“禁じ手”に挑戦《特集・日本人の旅》
新潟県・六日町温泉の旅館「龍言(りゅうごん)」は、リピート率向上のために試行錯誤を続ける。
同旅館はおよそ250年前の庄屋屋敷を移築した趣ある建物と約400坪もの大庭園が人気の旅館。将棋の竜王戦が実施されることでも有名で常連も多い。それでも、2004年の中越大震災以降、宿泊客は減る一方だった。客室数は36室だが、旅行代理店には3社に1室ずつしか出していない。個人客にリピートしてもらいたいとの思いからだ。
そのため、新しいことには積極的に挑戦してきた。今年1月には試験的に「ミッドナイトチェックイン」を導入。支配人の金綱光裕氏も、最初は半信半疑だったが、結果的に予想以上に予約は入った。「お客様はみんな喜んでくれて、こういうニーズもあるのだと初めて知った」と驚きを隠さない。
とはいえ、高級旅館を中心に日帰りや素泊まりはまだ“禁じ手”と見る向きは根強い。日帰りで利用した客室は宿泊利用できないうえ、昼間に働く従業員を余計に雇わなければならないからだ。ブランチや夜食、素泊まりに関しても、板前から強い反発があるケースが少なくない。
もっとも、ある旅館関係者はこう指摘する。「人手が足りない、調理人が対応できないというのはすべて経営者の言い訳。足りないのなら自分でやればいいのに、自ら汗をかいてまで働きたくないだけだ」。
新潟県・燕三条駅から車で30分。見渡す限りの田んぼ、山、海、と自然以外は「何にもない」岩室温泉に、20年近くも前から革新的なプランを提供している高級旅館がある。
その旅館「著莪(しゃが)の里 ゆめや」が業界でも“異例”とされる理由は料金プランにある。同旅館では10部屋・4タイプある部屋と5種類の食事をそれぞれ組み合わせて宿泊できるようにしているのだ(下表参照)。
もともと、岩室温泉は料亭から旅館に発展したところが多く、宿泊料金と食事代を分けて考える土壌はあった。それでも、当初は宿泊代と食事代のほかに、リネンなどの「お仕度代」まで細かく分けていたこともあって宿泊客から「わかりづらい」との声も出た。その後、試行錯誤を重ね、現在の形に落ち着いた。
ゆめやの場合、食事を選べるだけでなく、素泊まり、夕食抜きや朝食抜きも選べる。たとえば、3人で宿泊するうち、1人が夕食に間に合わない場合は1人分の夕食料金は差し引く。常連客の中には夕食を朝食としてとったり、滞在時間を延長して朝食を昼食としてとる人もいる。コンセプトそのものは「20年もの」だが、宿泊者の要望が多様化するのに合わせて、その対応も臨機応変に“進化”し続けている。「プランは旅館が決めるのではなく、お客さんに合わせるもの」(若女将(おかみ)の武藤麻矢さん)と、どこまでも柔軟だ。