日帰り、深夜チェックイン…新たなプランが続々、高級旅館も“禁じ手”に挑戦《特集・日本人の旅》
日帰り客で沸く湯河原 高級旅館も試行錯誤
旅行サイトやパンフレットに、さまざまな宿泊プランが乱立する中、最近急増しているのが夕食抜きや日帰り、素泊まりなど従来の「1泊2食付き」とは異なる宿泊形態をうたったプランだ。
1泊2食のビジネスモデルではもはや成り立たない--。不況に加えて、消費者の生活スタイルが変わる中で、旅館も新たな集客策を模索せざるをえなくなっている。こうした中、宿泊料金の格安化が進む一方で、宿泊形態やプラン、サービスの多様化が猛烈な勢いで進んでいるのだ。
湯河原で特にニーズが高いのは日帰りだ。ある旅館では日帰りで1万2000円程度のプランを始めたところ、平日でも毎日利用があるなど大盛況。利用客も女性から年配者、カップルまで多様だ。「最近では平日休みの人も多いし、湯河原や箱根といった日帰り圏内の場所では、1万円程度で楽しめる日帰りの需要は高い。都内の温泉施設より人は少ないし、個室が利用できるのも人気なのでは」と山本社長は分析する。現在のところ、ネット上で日帰りを販売しているのは楽天トラベルだけだが、あまりの人気に「じゃらんでも検討しているようだ」(同)。
サービスの多様化を進めているのは、高級旅館でも同じ。山本社長が経営するふきやは、温泉街を見下ろす高台に建つ客室数20の旅館。客室の平均単価は3万円以上と湯河原では高級旅館の部類に入る。
リピート率は約3割。理想は5割程度とする一方で、山本社長は「リピート客が多すぎても、需要が先細ってしまう。ある程度は新陳代謝をよくしないと」と、新規顧客の開拓に意欲的に取り組む。
そこで、同旅館では23時までのミッドナイトチェックインのほか、一人客向けプランや平日には14~21時まで利用できる夕食付き日帰りプランを提供。ただし、日帰りで利用できるのは客室単価の高い2タイプの部屋のみだ。通常宿泊料金の7割程度に設定することで、日帰りでも1人当たり3万円以上と高いため、宿泊用の部屋が減る“ロス”を最小限に食い止めることができる。これまでに、ミッドナイトの利用客は10組程度と軌道に乗り始めているが、日帰りは高価格とあって限定的だ。
周りでは同ランクの旅館が宿泊料金を1万円近く値下げしたケースもあるが、ふきやは価格を下げない。「旅館の半分はお客さんがつくるもの。安くすることで、まず料金ありきのお客さんが増えると雰囲気が壊れる。それでは3万円払ってきてくれていたお客さんも逃げていってしまう」と山本社長は言う。だからこそ、新プランを試す一方で、バスルームのアメニティなど備品からサービス一つまで手を抜かない。