東京の地下で進行する「メトロ大改造」の中身 混雑と遅延の緩和を狙いインフラ強化

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このため東西線では、混雑緩和と遅延抑制を目的としたハードとソフトの対策が行われた。

ハード対策には、列車の長編成化(全線開業時7両→現在10両)や、乗降を容易にするワイドドアの導入、列車の増発などがある。ソフト対策では、朝の時差通勤を促す「早起きキャンペーン」などがある。

混雑や遅延の問題を根本的に解決するには、駅の拡張や線路設備の増設などを行い輸送力を増強するしかないが、地下鉄ではそれが容易ではない。大都市の地下では、ライフラインなどの埋設物が多数輻輳しており、空間的な制約が多く、トンネルを容易に拡張できないからだ。このため、駅のホームや通路を拡幅するのが地上の鉄道よりもはるかに難しい。運転本数を増やすため、駅間に折り返し設備をつくるとなると、さらにハードルが上がる。

地下鉄の大改造には、そうした工事そのものの難しさ以外に、2つの難しさがあると野焼氏は言う。1つは、毎日の列車運行を継続しながら工事をすること。もう1つは、サービス水準を極力下げないことだ。日本の地下鉄では当たり前のことではあるが、海外の地下鉄ではそうではない。

海外の地下鉄では、駅の工事をするとき、駅そのものを休止して列車を通過させることがある。そのほうが工事の効率が上がり、コストや時間も節約できるという、経済合理性を優先した結果だ。たとえばロンドンの地下鉄では、駅の工事以外でも、利用者が減る週末などに一部の駅や区間を休止して、代わりにバスを走らせることも珍しくない。

ところが東京の地下鉄では、これが社会的に許されない。そもそも東京の地下鉄は、世界の地下鉄の中でも利用者数がとくに多いので、駅の営業や列車運行を継続しながら工事を進めるしかない。さらに、工事で通路が狭くなり通りにくくなるなどのサービス水準の低下は極力避けなければならないので、さまざまな配慮が必要になる。

有楽町線から始まった大改造

東京メトロでの大改造計画は、副都心線開業後に、有楽町線から始まった。

その工事は、遅延抑制が目的で、ボトルネックとなった平面交差区間(小竹向原・千川間)にバイパスとなる連絡線の新設工事を行っている(小竹向原→千川方面2013年供用開始、千川→小竹向原方面2015年度供用開始予定)。

新設したトンネルは、既存トンネルの一部の天井や壁を撤去して接続したが、既存トンネル部分では列車が最短2分間隔で通過するので、列車が走らない深夜帯(約4時間)に作業を集中させた。天井や壁は1個約10トンのブロックに切断して地上につり上げるが、切断途中のブロックを仮吊りしたまま固定して列車を運行することもある。

もし工事上のトラブルで列車が止まれば、その影響は有楽町線や、直結する副都心線にとどまらず、これらが直通する他社線にも影響が及ぶ。筆者は現場を取材したが、もし工事の当事者だったら、日々ヒヤヒヤしながら、安全確保のために神経をすり減らすだろう。

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