成長から平等重視へ原点回帰の中国共産党の政策 習氏が来年の共産党大会を控え国民の支持集め
中国共産党の習近平総書記(国家主席)は6月に訪れた青海省の省都・西寧で、上海やニューヨークの株式市場を揺るがした今回の校外学習規制をほほえみながら示唆していた。
西寧市にある小学生の放課後クラブを視察した習総書記は、「校外の塾講師に学校教師の代わりをさせてはいけない」とし、「教育部門が是正を進めている」と発言。学習塾に多くの時間やお金を費やさなければならないプレッシャーが生徒や親に対して強まっていると認めた上で、負担軽減を約束した。
習氏のコメントは当時、世界の投資家の注目を集めることはほとんどなかったが、学習塾を手掛ける企業へのその後の締め付けは、中国経済において社会の安定と国家安全の確保が最優先され、投資家の利益を遠く離れた3番目の優先順位とする新たなビジョンを巡る習総書記のコミットメントを最も鮮明に示すことになった。
中国、「資本に乗っ取られた」教育産業見直し-モデル転換不可避
この数十年、党指導部は銀行や石油など戦略セクターに対する厳格な管理は残したものの、新たな技術の採用促進や成長に向けた機会創出の自由を起業家や投資家に与えた。鄧小平氏は1980年代半ばに唱えた「先富論」で、こうした路線を整えた。今では成長率が鈍り、米国との対立もますます先鋭化しており、指導部は共同繁栄と国家安全というこれまでとは異なる目標を強調しつつある。
プロスペクト・アベニュー・キャピタルを創業した廖明氏(北京在勤)は、「これは中国の政策優先度における分水嶺的転換だ」と分析。「中国政府は最も強い社会的不満を生み出している産業を狙っている」と話す。
共産党の原点を踏まえれば、国内の発展計画と相反するなら指導部にはベンチャーキャピタルやプライベートエクイティー(PE、未公開株)、株式投資家の利益を踏みにじることに抵抗はない。現在の焦点は「三座大山(3つの大きな山)」と呼ばれ、過度に負担がかかっている教育と医療、不動産の支出に移っていると廖氏は指摘する。
新たな発展局面
習総書記によれば、中国は今年「新たな発展局面」に入った。自由な成長よりも優先される事項は3つある。
- 国家安全:データ管理やテクノロジーの自立強化が含まれる
- 共同繁栄:この数十年で広がった格差是正を目指す
- 安定:国内中間層の不満を抑えることを指す
今年の規制面の締め付けによってやけどを負った向きも多い国際的投資家にとって、中国で稼ぐには共産党の優先事項に歩調を合わせる必要があるというのが従来のルールだった。だが、その共通点を見いだすことがますます難しくなっている可能性があるという認識が芽生えつつある。
習氏を突き動かす動機の1つに、総書記として3期目を目指すと見込まれる来年の共産党大会を控えて国民の支持を集めておきたい思惑がある。社会の不満拡大は安定を何よりも重視する共産党を揺るがす。
外国の株主が被る損失に中国の指導部が涙を流すということはないだろう。中国にとってより大きなリスクは、強力な国家介入が民間投資を促すアニマルスピリッツを損ね、この40年にわたり成長を後押ししてきた世界経済との統合を反転させかねないという点だ。
中国の政治システムは不透明であり、政策の決定をたどることは欧米に比べて難しい。習氏、または経済政策の腹心である劉鶴副首相が演説や新たなキャッチフレーズを通じて今後の方向性を示す可能性がある。また、先を争って指導部を満足させようとする当局者がやり過ぎてしまうこともよくあり、あとで痛みを伴う調整や政策転換を迫られることもあり得る。
構造的な政策シフトによる影響はじわじわと表れる。中国の2001年の世界貿易機関(WTO)加盟につながった市場寄りの改革による恩恵は、08年の金融危機で輸出の活況が止まる前の期間にようやく見られた。
今回の政策転換による代償も時間をかけて表れるだろう。共産党が成長を実現しても、共同繁栄に軸足を移しているため投資家は得られる果実が小さくなることを甘んじて受け入れなければならないことが示されている。
原題:Xi Jinping’s Capitalist Smackdown Sparks a $1 Trillion Reckoning(抜粋)
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著者:Tom Hancock、Tom Orlik
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