東電の新料金プラン、お得なのは多消費世帯 家庭市場の自由化、料金メリットには限界

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こうしたことから、多くの家庭が新しい自由化対応のプランに移行せず、現在の規制料金体系にとどまると見られる。

「おおざっぱに申し上げると、当社の家庭など約2000万軒の契約のうち、約1割が(価格メリットの大きい)プレミアムプランの対象となる」(眞田室長)という。ここが東ガスなど新規参入企業との主戦場になる一方、単身者や二人暮らしのみならず標準的な世帯も当面は主要なターゲットにはなりそうにない。

東電は中電や関電のエリアを皮切りに全国展開をめざしているが、自社での販売網を持たないことからソフトバンクやTOKAIホールディングスなどとの提携戦略が主体になる。エリア外での初年度の契約目標は「20万軒」(眞田氏)と控え目だ。エリア内でも従来の料金体系から新メニューへの移行は「初年度に約80万軒」(同氏)にとどまると見込む。電力自由化はゆっくりしたペースで進むのかもしれない。

こうした競争の形になったのは、新規参入企業の多くが従来、料金が割高だった電力多消費世帯をもっぱらターゲットにしたことが大きい。反面、少人数世帯についてはガスやインターネット、携帯電話とのセット契約を申し込まない限り、価格面で大きなメリットを享受することが難しい。

東電の佐藤梨江子執行役員カスタマーサービス・カンパニー・バイスプレジデントは、「(少人数世帯や標準世帯が)料金単価でメリットを感じていただくのは難しい。ただ、ポイントが付いたり、提携先のサービス紹介など、いろいろなメリットがある」と説明する。東電では4月に会員サイトを新たにオープンし、電気の使用量グラフや利用明細、保有ポイントが簡単にわかるようにする。

わかりやすく広く割り引きを行う東燃ゼネラル

新規参入企業の中で、電気だけの契約であっても割引メニューを提示したのが東燃ゼネラル石油だ。同社の場合は契約容量(アンペア数)が30アンペアと小さい場合でも東電と比べて3%の割引率を明示。40アンペアの場合には割引率が5%になるなど、わかりやすさを前面に打ち出した。同社は総合エネルギー企業を目指していることから、先を見据えて顧客層を広げようとしている。しかし、こうした企業はまだ少ない。

東電の小早川プレジデントは、「1、2段階料金(にとどまる少人数世帯や標準世帯)の方々に十分に還元できなかったのは残念ながらわれわれの現在の実力値」と打ち明ける。だが、利幅の薄い、少人数世帯向けへのメリット提供が難しいのは、新規参入組の多くにも共通している。10年後はともかくとして、当面は一部の中高所得世帯を対象とした囲い込み競争になりそうだ。

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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