新日本、”正月休み返上”会議の気になる中身 遅すぎる対応に、企業や市場は冷めた視線

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対応に追われているのは2015年12月期や2016年3月期に本決算を控える民間企業だけではない。新日本など大手監査法人は、政府や自治体へのコンサルタント業務も幅広く行なっている。

ところが、突然の行政処分を受けて、ある官庁では「予算まで確保したにもかかわらず、年明けから事業は凍結状態にならざるを得ない」と頭を抱えている。

こうしたなかで、当事者の新日本が年明けにいかなる再発防止策を決定するのかはやはり、大きな焦点にちがいない。

ある東証一部上場の非製造業の関係者は、「監査の品質管理のこと、今回の経緯を見聞きすると、新日本は法人としての危機管理が備わっていたのかどうかと思いたくなる」と、自浄能力を発揮できるかどうか、懐疑的な視線を送っている。

金融庁が近年、監督先企業に厳格な行政処分を下した事案では、今回の新日本に限らず、事態発生後の危機管理、あるいはコンティンジェンシープラン(緊急時対応計画)が欠落していたケースが少なくない。

かつて、監督官庁が箸の上げ下ろしまで指導するという事前監督方式から、問題を発生させた企業の自浄能力まで見極める事後監督方式に変わったのだ。

もし、新日本の経営陣がそのような自主性に基づいた自浄力を外部も理解できるほどに発揮していれば、前述のような懐疑的な評価は受けなかったにちがいない。

資本市場の担い手に欠かせない"繊細さ"

金融庁や公認会計士・監査審査会は、新日本監査法人に対して資本市場の担い手として厳しい視線を送っている(撮影:尾形文繁)

2015年12月の新日本の行政処分以降、企業が支払う監査費用で当該企業を監査しているという構造に着目して「企業と監査法人の馴れ合い」を当然視するムードすら社会には起きている。

ただ、資本市場の仕組みは、企業と監査法人の関係に限らず、格付け会社や主幹事証券会社など、ほとんどの領域で同様の関係で築かれている。いわば、いずれも”繊細さ”と”微妙さ”で構築されたガラス細工のようなものばかりである。

だからこそ、担い手にはその仕組みに相応しい”繊細さ”が求められている。それを喪失していたとすれば、担い手としての資質がなかったという烙印すら押されるのが、今の金融庁や証券取引等監視委員会など監督官庁が想定する厳格な資本市場である。

金融庁が過去に厳格な行政処分を打ち出したケースでは、みずほ銀行の反社会的勢力への融資問題や野村証券のインサイダー事件にみられるように、経営陣の大幅な刷新を伴う経営改革にまで及んでいる。

それによって、みずほフィナンシャルグループも野村ホールディングスも再生の糸口を得た。新日本は、自らの有力監査先企業であるみずほFG、野村HDから十分に学ぶ必要がある。

1月3日、4日に新日本で行なわれるパートナーたちの会議で、再発防止策を含めてどういった結論を導き出すのか。新日本は決断を迫られている。

浪川 攻 金融ジャーナリスト

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なみかわ おさむ / Osamu Namikawa

1955年、東京都生まれ。上智大学卒業後、電機メーカー勤務を経て記者となる。金融専門誌、証券業界紙を経験し、1987年、株式会社きんざいに入社。『週刊金融財政事情』編集部でデスクを務める。1996年に退社後、金融分野を中心に取材・執筆。月刊誌『Voice』の編集・記者、1998年に東洋経済新報社と記者契約を結び、2016年にフリー。著書に『金融自壊――歴史は繰り返すのか』『前川春雄『奴雁』の哲学』(東洋経済新報社)、『銀行員は生き残れるのか』(悟空出版)などがある。

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