惨事の村は立ち上がった 台湾大水害から3年

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文化・伝統の継承にも力を注ぐ

こうした産業再生の取り組みだけでなく、村民は子どもたちも取り戻そうとしている。今年2月にあった村の行事では、被災後に生まれた新生児が30人以上集まった。せっけん工房の隅にはベビーベッドが置かれ、小さな赤ん坊が忙しく立ち働く母親を眺めている。ここでは、皆で子どもの世話を手伝っているのだ。

水害では子どもも多く亡くなった。高齢出産となる年齢でありながら、子どもを産みたいという女性も多い。36歳になる蔡さんも、今年、発展協会の理事長職を辞めたら、結婚し早く子どもを産むつもりだ。

生活全般にも活気が出てきた。夜になると、昼間の工房での仕事を終えた若者たちが、活動センターに集まってくる。踊りの練習をするためだ。仮設住宅に住んでいた頃、何もしないのはよくないと、自らが属する少数民族の踊りの再興を始めた。高齢者だけのものだった伝統の踊りが、世代を超えて伝わり出している。

今年、村民から成る舞踏団が、台湾各地をボランティア公演して回る感謝の旅を始めた。たくさんの人が助けてくれた。自分たちが再び立ち上がったことを舞台の上から知らせることで、感謝の気持ちを伝えたいと願ってのことだ。

ある村民はこう語る。「山を敬い恐れ、風雨を敬い恐れる。天地の運行の道理は、人類が変えられるものではない。それに勝とうと思ってはならない」。人類は、いかにして山や水、宇宙の万物と付き合っていくのか。いくら学んでも極めることのできない永遠の課題である。

(台湾『今周刊』No.814/鄭淳予記者、辛曉キン研究員 =週刊東洋経済2012年8月25日特大号)

記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
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