プロ野球を2度クビになった男がつかんだ宝 細山田武史は、それでも腐らずにやり続ける
野球界全体でも捕手の人材難が深刻な中で、今年のホークスは捕手陣にケガ人が続出した。そういう意味からいうと、確かに細山田の言うようにラッキーな部分もあるかもしれない。それでも、それは腐らずにやり続けた細山田の勝利といえる。試合に使われない、ましてや3軍暮らしが続く中で、気持ちを腐らせることなくやり抜くことは、想像以上に困難なことだ。細山田自身も、そうやって試合に使われない環境で腐っていく選手を何人も見てきたはずである。その中で、細山田は腐らなかった。それはなぜか。
今を作ったのは、紛れもなく過去の自分
「すべては、現状を受け入れることだよね。今、そういう状況に置かれた自分を作ったのは、紛れもなく過去の自分。それを認められるかどうか。未来を変えたければ今の自分を変えるしかない。試合に出られなくても、できることはある」
ゆっくりと、確認するように紡ぎだす細山田の言葉は、限りなく本質的で、どこか確信めいた落ち着きがあった。
チームがCS、日本シリーズに向けて準備をしている最中の10月、細山田の下に3軍マネージャーからの電話が入る。
「まだ全然やれる気でいたんだけど、電話がかかってきた瞬間、『マジかー』って言っちゃったよ。で、明日球団事務所来てくれって言われて、電話切った後に『マジかー』ってまた言っちゃった。それくらい、今回は急だったな」
翌日、細山田はヤフオクドームの一室で、自身2度目の戦力外通告を受けた。球団からは、野球への真摯に取り組む態度や人間性から、球団職員として残ることを提案された。クビになった自分を獲ってくれたことや、3軍も1軍も優勝も経験できた恩を感じ、球団に残る選択肢も十分ある中で、細山田はこれを保留した。
「育成だけで終わっていたら、間違いなく残っていたと思う。でも、1軍の試合に出るとさ、やっぱりいいもの見ちゃったよね。まだやりたい、って。考える時間をください、とお願いした」
細山田の戦力外通告が世の中に発信されたのち、社会人野球の名門トヨタ自動車から連絡が来る。直後、関係者が名古屋から福岡へ会いに来た。そして、熱烈に説得されたという。