旅客機高級シートに参戦した日本企業の勝算 ジャムコは欧米2強の寡占を崩せるか

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――不採算案件の損失引当金積み増しなどを強いられ、シート事業は今年度も赤字が続く。

受注・売り上げは順調だが、損益面ではまだ苦労している。開発費が先行して発生するのは仕方がない。問題は、想定よりも量産時のコストが高止まりしていることだ。理由はいくつかあって、製造のしやすさも考慮して設計する技術がまだ十分でない。また、エアラインのこだわりが非常に強いので、ギリギリまで仕様決定に時間がかかり、下請けとの価格交渉などにも影響が出ている。

製造コストをいかに下げるかが当面の大きな課題だ。客先との仕様決定プロセス見直しや設計面の工夫、シートプログラムの原価管理やコスト改善策を考える専門組織の立ち上げなど、製造コスト削減のための対策に動いている。併せて、専用の新工場を宮崎で立ち上げ、一部生産工程の自動・ロボット化も進める。一連の対策により、2016年度には黒字化できる見込みだ。

内装改修の一括受託も可能に

ギャレー(厨房設備)では中大型機用で高い世界シェアを誇る

――ジャムコにとって、シート事業の重要性とは?

旅客機の市場が毎年伸びているので、既存事業だけでも一定の成長は可能だろう。ただ、為替など、いろいろなリスクがある。

ボーイングとの化粧室などの取引にしても、昨年の契約更新でかなり先まで仕事の量は確保できたが、(エアバスとの競争激化による値下げ要求で)納入価格はこれから下がる。シート事業を新たなエンジン役として、長期にわたる成長を確実なものにしたい。

シート単体での成長性に加え、内装品事業全体への相乗効果も期待できる。ギャレー、化粧室はもちろん、当社は操縦室の内装品やドア、フロアパネル(客室床板)なども手掛けている。そこにシートが加わり、旅客機内装の主要なものは全部対応できる体制になった。

新造機の生産が右肩上がりで増えているので、これから先、年数を経た機体の内装改修需要が確実に増える。いわゆる「レトロ・フィット」と呼ばれるビジネスだ。今まではシートが抜けて落ちていたので無理だったが、今後はエアラインから内装改修を一括で引き受ける「一機丸ごと受託」も狙っていく。

――現在、旅客機シートは、化粧室やギャレーのライバルでもある欧ゾディアック、米B/Eエアロスペースが市場の7割を占有している。2強の寡占を崩せる自信は?

2社はM&Aで巨大化し、ゾディアックはグループ内に3つもシートメーカーを抱えている。ただ、極端に寡占化が進んだ結果、2社がすごく強気になり、納期も頻繁に遅れるので、エアラインや旅客機メーカーは非常に困っている。いろいろな企業から「ジャムコの参入は大歓迎だ」と言っていただいた。

企業規模だけを見ると当社は2社より小さいが、主力の化粧室、ギャレーでは競争に勝っている。品質の高さ、正確な納期が当社の強みで、これはシート事業でも同じだ。新規参入なので不利な点は当然あるが、これから着実にシェアを取っていけると思っている。

渡辺 清治 東洋経済 記者
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