米国は今次COP21では対策の強化に積極的に動いたが、国内には強い反対論があり、将来の政権が現政権ほど地球温暖化対策に熱心だとは限らない。
場合によっては議会の圧力で「パリ協定」にそっぽを向く恐れもある。しかし、米国はどの国にとってもお手本にならない。米国の政府と議会の関係は特殊なものであり、そこに不確定要因があるとしても、他の国が米国に倣うことにはならない。世界中のすべての国が同志となって参加する「パリ協定」の性格は変わらない。
今後、日本は具体的にどのように行動すべきか。日本はすでに「2030年度に2013年度比マイナス26.0%(2005年度比マイナス25.4%)の水準」という温室効果ガス排出の削減目標を立てており、まずこれを是が非でも達成する必要がある。
問題はその先だ。パリ協定は、「今世紀後半には、温室効果ガスの吸収と排出を差し引きゼロにする」ことを打ち出した。「後半」と言っても50年の幅があるが、かりに一番遅い2100年にゼロとするには、現在不幸にして総発電量の9割(実際にはもっと高い)に達している化石燃料発電を原発と再生可能エネルギーで代替しなければならない。
原発を増やせるのか
その中で原発がどうなるか。2030年度において原発による電力は総電力量の2割超ということになっている。これが70年後に維持されるか、減少するか、それとも増加するか。本稿ではその議論に立ち入らないが、化石燃料の9割を全部原発で代替することはあまりにも非現実的だろう。大雑把な話になるが、かりにその半分の4~5割としても、大震災前最も原発が多かった3割強(30.8%)と比較して非常に多い。そんなことを政治的に実現できるか大いに疑問だ。
そこで、分かりやすくするために、原発を3割だとしよう。そうすると残りの6割は再生可能エネルギーになり、水力の1割が不変とすれば、それ以外の再生可能エネルギーの比率は5割となる。つまり、現在の2.2%(資源エネルギー庁「再生可能エネルギー各電源の 導入の動向について」平成27年3月。水力発電を含まない)から50%まで引き上げなければならないのである。
この目の子計算にはあまりに大雑把で、異論があるかもしれないが、「パリ協定」の履行のためには再生可能エネルギーの比率を、これまでの常識からは想像できないほど大幅に引き上げることが必要になることは明らかだろう。
これは尋常な方法では達成できない。石炭産出をやめることにも似た、100年に1回くらいの大ごとであり、関係企業の見積もりを基礎としてはじき出されるような数字でない。「パリ協定」という巨大な国際政治運動を正確に認識し、その上で強い政治力により決定するしかない数字だ。
政府は今、原発の再開問題に直面している。原発についての意見の違いはさておいて、エネルギー確保のために安全な原発を再開することは必要なことだと思う。しかし、そのため、官民の関心が原発の再開に集中するのは、再生可能エネルギーの比率を大幅に高めるのに役立たないばかりか、阻害要因になる恐れさえある。
また、再生可能エネルギーの奨励のため効果的であった余剰電力買取制度と固定価格買取制度を見直そうという動きは、原発再開と関連があるのか否かよく分からないが、いずれにしても再生可能エネルギーの比率を大幅に高めるのに不利なことであり、さらに力強い奨励策を実施すべきだ。
政府が来春にまとめる予定の「エネルギー・環境イノベーション戦略」は重要な機会といえるだろう。日本は「パリ協定」を履行するために、2030年までの目標達成の道筋を明確に描くとともに、今世紀末までの長期目標も掲げ、それを達成するための戦略を強い政治力で策定するべきである。そのことが環境先進国として返り咲くことにも繋がるだろう。
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